第五十八話、トレビムの会議

文字数 2,164文字

 王都トレビムでは会議が行われていた。


「なぜアリゾム山にドワーフは攻め入っているのだ」


 王であるルミセフが言った。軍事顧問のペックスより戦況を聞いた。


「なぜだがわかりませんが、アリゾム山を占拠することが目的かもしれません」


 軍事顧問のペックスが言った。


「そんなことより、森を焼くのはやりすぎなのではないかね。バリイの民のことも考えねば」


 内務大臣のケフナが言った。


「二万のドワーフを押さえるためにはこの方法しかありませんでした。それにギリム山が噴火すればどのみち森は焼けてしまうでしょう」


「そこまで焼けんだろ。たき火に薪をくべるかのごとく、焼き払っているそうではないか」


 財務大臣のオランザが言った。


「まぁまぁ、一度燃えてしまったものは仕方が無いでしょう。しばらくは燃えて貰うしかあるまい。それよりも、陛下の疑問、なぜドワーフはアリゾム山に攻め入ったのか。トパリル殿何かご存じありませんか」


 外務大臣のヨパスタは情報部のトパリルを見た。


「いえ、わかりません」


 トパリルは少し表情を変えた。


「そうですか。ミスリル鉱山を求めて、アリゾム山に侵攻したという情報があります」


「ほう、ミスリル鉱山」


「それは、どれぐらい信頼の置ける情報なのですか」


「バリイ領の領主周辺の情報なので、ある程度信頼の置ける情報ですよ。少なくとも、領主はそう考えているようです。一連のドワーフの行動、ギリム山噴火により住処を失うドワーフが、西のアリゾム山へ向けて拠点を作りながら移動していると考えれば、筋が通るのではいないですかな」


 いささか得意げな表情に見えた。情報部と外交部では業務がかぶっている部分もあり仲が少し悪かった。トパリルが高齢のヨパスタの後釜を狙っているのではないかという話もあった。


「なるほど、最初からバリイ領を征服しようとなど考えていなかったわけだな」


「ええ、アリゾム山のみを狙っていたわけです。ドワーフに人間を支配することなどできません。奴らができることは山に穴を掘って鉱物を取り出すだけですよ」


「そのために戦争を行ったということか」


「よくある話です。肥沃な土地を求めて攻め入る。ドワーフの場合はそれが鉱山だっただけのことです。此度は火山の噴火というやっかいなおまけがありますが、人の争いとたいして変わりません」


「陛下、いかがいたしましょうか。バリイ領の山一つ、それで収まるのなら、あとは話し合いで落とし込んでいけばいいのではないでしょうか」


「そうだな」


「陛下、これはチャンスかもしれませんぞ」


 財務大臣のオランザが言った。


「なにがだ」


「ミスリル鉱山ですよ。もし、アリゾム山にミスリル鉱山が眠っているとなると、ドワーフにくれてやるのはもったいない話なのではないですか」


「ドワーフと戦えというのか」
「ええ、そうです。戦って手に入れるのです」

「だが、あるかどうかはわからんのだぞ」


「戦争をしてまで手に入れたい山なのですよ。何の価値のない山を大勢の同胞の命を失ってまで手に入れようとしますか。鉱物に関してはドワーフはプロ中のプロ、あると、考えてもよろしいのでは、もし、ミスリル鉱山を手に入れることができれば、国の財政は長期にわたって好転します」


 オランザは少し興奮した様子で言った。長年、国の財政と経済をあの手この手ですりあわせてきた。鉱山を国有化できれば、財政と経済、両方解決できる。

「しかし、アリゾム山はそもそも、バリイ領の領地ですぞ。どうやって手に入れろと」


「なんとでもなるでしょう。戦後処理という名目でアリゾム山に居座るなりすればいいでしょう」


「それは、ちと無理がありますな」


「仮にアリゾム山を押さえられたとして、その後どうします。利益が出るまで金と年月がかかりますよ」


「金は借りればいい。商人は将来の収益を見込める事業には貪欲に投資する。ミスリル鉱山から漏れる、道、道具、人、食い物、群がっていくらでも湧いてくる。何とでもなりますよ」
「そういうものですか」

「賠償金代わりにドワーフをアリゾム山で働かせればどうでしょうか」


 トパリルが言った。


「その管理を国が行うと」


「そういう名目で、アリゾム山を押さえてしまえばいいのです。ドワーフの収容所、避難所と言うことで」


「悪くはないな」


「噴火が起きれば、バリイ領は大混乱に陥るでしょう。バリイの領主にドワーフの管理をしている余裕はありますまい。そこに付け込んで吸い上げてしまえばいいのです。多少強引なことをしても、噴火の混乱でなんとでもなるでしょう」


「いい、いいよそれ」

「ドワーフに勝てるのですか」


 ペックスは疑問の声を出した。


「拮抗しているようだが」


「ええ、今のところは、二万のドワーフを封じ込めていますから、しかし、火が収まれば、彼らは来るでしょう」


「ドワーフの王ドルフを倒せばよいのでは、反対派の王の長男がギリム山で幽閉されています。それを使えばよいのではないでしょうか」


「ドルフ王を倒せるか」


 ルミセフは聞いた。


「兵を集中すれば何とかなるでしょう。ただ、相手はドワーフですので倒した後どうなるかわかりません」


 人とは違うのだ。王が死んだからと言って戦意を喪失するとは限らない。残り二万が燃えさかる森を乗り越え暴れ回るかもしれない。


「手を入れなければ何も得られませんよ」


 オランザは言った。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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