第七話、領主
文字数 2,658文字
バリイの領主は頭を抱えていた。ドワーフからの突然の宣戦布告をどう対処していいか悩んでいるうちに、ギリム山の近くの村が焼き払われた。慌てて兵を出すと、その兵も蹴散らされた。
長年よき隣人であったドワーフがかくも凶暴で手強い敵になるとは思ってもいなかった。そもそもなぜ襲われなければならないのか意味がわからなかった。
重臣の一人が言った。
民の間では、そんなうわさ話をする者もいる。
シャベルトが言った。
ギリム山のドワーフに詳しい者はいないかと言う話になり、長年ギリム山周辺で活動している学者がいるぞと、エルリムに避難していたシャベルトが領主の元に連れてこられた。
シャベルトは一年ほど前に湖に見た光景を思い出した。あれから何度も湖を調査したが、あの現象の原因はわからなかった。
多少すねたような口調で言った。
領主は深い失望を感じた。数百年にわたって山のドワーフと人間はよい関係を持っていたと思っていたが、それがあっけなく崩れた。しかも理由がわからない。
総司令官が言った。
領内の兵をかき集めればあと二千は用意できる。なるべくなら避けたいが国軍に頼ることもできる。
総司令官は釈明した。
総司令官は顔を伏せた。
領主はシャベルトに目線を向けた。
ため息をついた。
「ドワーフは女性の数が男と比べ少なく、三分の一程度と言われています。おそらく、寿命が長い分、増えすぎないよう、女性が生まれてくる確率を下げているのでしょう。ですから、男の数が、もうちょっと増えますね」
「エルリムの壁は、古いですがかなり頑丈にできております。ドワーフの斧も城壁には無力でしょう。それに攻めるより守る方が容易です。市民からも兵を募ることも可能です。食料も十分ありますし、壁を盾に相手の出方を見てはどうでしょう」
総司令官は不機嫌そうな顔をした。
シャベルトは遠慮がちに言った。
総司令官は顔を少し赤らめ席を立った。
シャベルトは不安げな顔をした。
シャベルトは断ろうとしたが、ドワーフも動物だろうと、領主に強引に押し切られた。
翌日、シャベルトが泊まっている街の宿屋に、一人の男が訪ねた。背嚢を背に腰に剣をぶら下げている。
シャベルトは、すでに荷をまとめ旅支度を終えていた。
グリオム山はかなり険しい山と聞く。シャベルトの年齢が四十を少しこえたぐらいなので、その師となると、若くても六十代、七十、八十歳代であってもおかしくはない。
何で私なのかなあー、シャベルトはつぶやきながら歩いた。