第四十話、雪辱

文字数 1,407文字

「レマルクが死んだ」


 リボルはその報告を聞いてショックを隠せなかった。長年にわたってリボルを支え続けてきた男であった。年が三つ上で、勝てる部分と言えば家柄ぐらいだったろう。


「人間の傭兵か」


 その可能性を検討しなかったわけではない。だが、ドワーフの強さを考えれば人間の傭兵に頼る可能性は少ないのではと思っていた。ミスリルの武具で身を固めた傭兵とは、考えてもいなかった。


「囲まれていますな」


 スタミンがレマルクが率いていた部隊がいる方角を見ながら言った。


「ああ、敵の騎馬隊にいいようにやられている」


 顔をしかめた。


「いかがいたします」


 リボルの陣もドワーフに攻められていてる。距離もある。下手に助けに動くと、さらに犠牲が増える可能性があった。


「騎馬隊を出す。レマルクの、部隊は、ばらけさせて一度北に戻させて、その後こちらに合流させる」


 北の野営地には、補給物資と夜襲を警戒して、一応、防御柵が立てられている。


「わかりました。では誰を」


「俺がいきます! いかせてください!」


 バナックが声を上げた。


「おまえがか」


 汚名返上を狙っているのだろう。もう一度指揮を任せるには不安があった。


「俺の兵隊だけでもいいです。いかせてください」


 前の戦いで犠牲は出たが、バナックの馬が四十頭ほど残っている。リボルの目から見てたいした馬ではない。仮に失敗したところでたいした痛手にはならないだろう。手勢の騎馬隊を温存できることを考えれば悪い話ではない。

 リボルはスタミンに目をやった。いいのでは、とうなずいた。


「いいだろう。行ってこい。無茶をするなよ」


「ええ、まかしておいてください」


 バナックは仲間を集めに走った。








 ミスリルの鎧は、かたい上に軽い。鋼の鎧を着て馬に乗って戦えば、馬の消耗が激しく動きも鈍くなる。だがミスリルの鎧は鋼に比べ軽い。ミスリルの鎧を着た騎馬隊と鋼の鎧を着た騎馬隊が戦えば、当然ミスリルの鎧を着た騎馬隊が勝つことになる。しかも、レマルクが率いていた騎馬隊は人数も少ない。三十騎ほどいた騎馬隊は瞬く間にすり減らされた。


「はっはっはっ、すばらしい! ミスリル万歳だ!」


 傭兵隊の隊長マヨネゲルはミスリル製の剣を手に言った。全身鎧でありながら、この軽さ、一見、頼りないぐらい薄い板で組み合わされているものの、至近距離のクロスボウでさえ跳ね返す強度。相打ちでいいのだ。あちらの武器はこちらに通らず、こちらの武器はあちらに通る。負ける要素が見当たらなかった。


「さて、貰った報酬に見合う仕事をしなくてはな」


 マヨネゲルは馬の腹を蹴った。








 バナックは元は馬泥棒だった。牧場や戦場で馬を盗んでいたが、名が売れ、追っ手が迫るようになり、しばらく身を潜めることにした。さばききれなかった馬がいたため、怪しまれることを恐れ、傭兵団を名乗ることにした。十五年ほど前のことである。


「兄貴ぃー、どうするんですかい」


「どうするもこうするも、助けに行くんだよ。助けられちまったからな」


 義理堅い、というより、恥をかいたという気持ちの方が大きかった。


「あんなきらきらした鎧着てる連中、俺たちにゃ、なんか、やばいっすよ」


 自分たちの身につけているものを見た。垢じみた服と、補修の跡がある皮鎧。きらびやかなものは一つも無かった。


「まともにぶつかる気はねぇ。必要なものだけでいい。できるだけ身軽にしろ」


 そういうと、バナックは皮鎧を脱ぎ捨て、馬に乗った。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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