第四十話、雪辱
文字数 1,407文字
リボルはその報告を聞いてショックを隠せなかった。長年にわたってリボルを支え続けてきた男であった。年が三つ上で、勝てる部分と言えば家柄ぐらいだったろう。
その可能性を検討しなかったわけではない。だが、ドワーフの強さを考えれば人間の傭兵に頼る可能性は少ないのではと思っていた。ミスリルの武具で身を固めた傭兵とは、考えてもいなかった。
スタミンがレマルクが率いていた部隊がいる方角を見ながら言った。
顔をしかめた。
リボルの陣もドワーフに攻められていてる。距離もある。下手に助けに動くと、さらに犠牲が増える可能性があった。
北の野営地には、補給物資と夜襲を警戒して、一応、防御柵が立てられている。
バナックが声を上げた。
汚名返上を狙っているのだろう。もう一度指揮を任せるには不安があった。
前の戦いで犠牲は出たが、バナックの馬が四十頭ほど残っている。リボルの目から見てたいした馬ではない。仮に失敗したところでたいした痛手にはならないだろう。手勢の騎馬隊を温存できることを考えれば悪い話ではない。
リボルはスタミンに目をやった。いいのでは、とうなずいた。
バナックは仲間を集めに走った。
ミスリルの鎧は、かたい上に軽い。鋼の鎧を着て馬に乗って戦えば、馬の消耗が激しく動きも鈍くなる。だがミスリルの鎧は鋼に比べ軽い。ミスリルの鎧を着た騎馬隊と鋼の鎧を着た騎馬隊が戦えば、当然ミスリルの鎧を着た騎馬隊が勝つことになる。しかも、レマルクが率いていた騎馬隊は人数も少ない。三十騎ほどいた騎馬隊は瞬く間にすり減らされた。
傭兵隊の隊長マヨネゲルはミスリル製の剣を手に言った。全身鎧でありながら、この軽さ、一見、頼りないぐらい薄い板で組み合わされているものの、至近距離のクロスボウでさえ跳ね返す強度。相打ちでいいのだ。あちらの武器はこちらに通らず、こちらの武器はあちらに通る。負ける要素が見当たらなかった。
マヨネゲルは馬の腹を蹴った。
バナックは元は馬泥棒だった。牧場や戦場で馬を盗んでいたが、名が売れ、追っ手が迫るようになり、しばらく身を潜めることにした。さばききれなかった馬がいたため、怪しまれることを恐れ、傭兵団を名乗ることにした。十五年ほど前のことである。
義理堅い、というより、恥をかいたという気持ちの方が大きかった。
自分たちの身につけているものを見た。垢じみた服と、補修の跡がある皮鎧。きらびやかなものは一つも無かった。
そういうと、バナックは皮鎧を脱ぎ捨て、馬に乗った。