第十七話、丘の上

文字数 1,703文字

 樹木の葉色は少し変わり、生い茂る雑草は所々茶色く変色していた。風が少し寒かった。

 フエネ平原の南西、小高い丘にドワーフの兵は要所要所にエルリムからもってきた石を積み上げ、防壁にしていた。足りない部分は木の柵を作り守りを固めた。五百人ほどのドワーフ兵が忙しそうに動き回っている。


「守りを固めているな」


 リボルは馬上にいた。十キロほど離れた丘の上にドワーフの兵がいる。


「エルリムの壁でしょうか。石を持ってきて壁にしているようですな」


 副司令官のレマルクが言った。角などの要所要所のみ石を使っている。


「目的がわからんな。このまま、まっすぐ攻め込んでくるかと思っていたら、こんな何もない平原で立ち止まるとは、何をしたいんだ」


「援軍を待っているのかもしれませんな。ドワーフとはいえ、五百で千五百とは戦えますまい」


「拠点をつくって、援軍を待つ、悪くは無いと思うのだが」


「なぜここなのか、ですね」


「そうだ。ここに拠点を作るのなら、なぜエルリムを燃やした。ギリム山、エルリム、フエナ平原と拠点をつないで、領地を切り取っていけばいいではないか。せっかく取ったエルリムを捨て、こんな何もないところに一カ所だけ拠点をつくってどうする。奴ら何をしたいのだ」


「ここに住む気なんじゃないですかね」


 第三騎馬隊隊長のプロフェンが言った。


「ここに? 川はあるし土地も余っている。ふふっ、住むには悪くはないかもしれないな」


 ただ、水はけが悪く土地もやせているため、作物を育てるには適していない。


「どうしますか。ドワーフがここに住みたい、などと言ってきたら」


「許さんさ。戦の前ならわからんが、ことここにいたっては、ドワーフの連中にやる土地などひとかけらもない」


「そうですな、他家を燃やして自家を建てる連中にやる土地などありませんな」


 他家を燃やして自家を建てる。とは、この国のことわざである。

 昔、運気がいいと言われている土地に農民が家を建てた。それを知った商人がその土地を売ってくれと頼んだが、農民は首を縦に振らなかった。商人は手下に命じて、家に火をつけ燃やした。住むところがなくなった農民は、安値で土地を商人に売らざるを得なかった。商人はその土地に大きな屋敷を建てたが、その後、放火したのが商人だとわかり、捕まり縛り首になった。土地と屋敷は農民の物になった。身勝手なことをしてはいけないということわざである。


「しかし、手際がよすぎる気がしませんか。ちょっとした砦になってますよ」


 柵の高さはドワーフにあわせ低めに作られているものの、太めの頑丈な木で作られ、馬止めように先端のとがった木が飛び出している。


「あらかじめ、木材を用意していたのだろう」


「計画的ですな」

「どうやって攻めるんです。守りを固められると、騎馬隊は使えませんよ」


「それなんだよ。領主様に騎馬隊で蹴散らしてやりますよと言ってしまったんだがな」


 ため息をついた。


「誘い出してみるしかないでしょう。それでもだめな時は、歩兵を使って、引きはがしていくしかありません」


「かなり、犠牲が出るな」


「ええ、しかし、援軍が来れば、もっとやっかいなことになります」







「ドーン!」

 ドロワーフはハンマーで杭を打ち込んでいた。一撃で杭は三分の二ほど地面に埋まった。


「打ち込みすぎだ。それでは木の柵にならない」


 ダレムが言った。

 木の柵の補強をしていた。角をエルリムから持ってきた石と土で壁を作った。二つある入り口の正面にも石壁を使っている。半年ほど前に、この丘の上にあった漁師の小屋を買い、木材と食糧をため込んでおいた。それを使い柵を作っていた。


「守りに入るってのは、どうも好きじゃなぇなぁ」


 ドロワーフはハンマーを肩に担いだ。円柱の鉄の塊を力任せに振り回す、そういう武器であった。


「足止めできればそれでいい。どのみち奴らは攻めてくる。それまでの辛抱だ」


「こっちから行っちゃだめなのかよ。すぐそこじゃねぇか」


 ドロワーフは人間の兵がいる方角を見た。別の丘の上で陣を敷いている。


「だめだ。騎馬隊がいる。奴らの元にたどり着く前に馬に蹴散らされる」


「つまらんねぇ」


 ドロワーフはすねたような表情をした。


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登場人物紹介

ドルフ

ドワーフの王

ムコソル

ドルフの側近

ロワノフ

ドワーフの王ドルフの長男

ダレム

ドワーフの王ドルフの次男

ドロワーフ

ハンマー使い

メロシカム

隻腕の戦士

トンペコ

ドワーフの軽装歩兵部隊の指揮官

ミノフ

グラム


ジクロ

ドワーフの魔法使い

呪術師

ベリジ

グルミヌ

ドワーフの商人

オラノフ

ゴキシン

ドワーフの間者

部下

ノードマン

ドワーフ部下

ヘレクス

カプタル

ドワーフ兵士

ガロム

ギリム山のドワーフ

ハイゼイツ

ドワーフ

ドワーフ


マヨネゲル

傭兵

マヨネゲルの部下

ルモント

商人

メリア

秘書

バリイの領主

イグリット

アズノル

領主の息子

イグリットの側近

リボル

バリイ領、総司令官

レマルク

副司令官

ネルボ

第二騎馬隊隊長

プロフェン

第三騎馬隊隊長

フロス

エルリム防衛の指揮官

スタミン

バナック

岩場の斧、団長

バナックの弟分

スプデイル

歩兵指揮官

ザレクス

重装歩兵隊大隊長

ジダトレ

ザレクスの父

マデリル

ザレクスの妻

 ベネド

 副隊長

ファバリン

アリゾム山山岳部隊司令官

エンペド

アリゾム山山岳部隊副司令官

デノタス

アリゾム山山岳部隊隊長

マッチョム

アリゾム山山岳部隊古参の隊員

ズッケル

アリゾム山山岳部隊新人

ブータルト

アリゾム山山岳部隊新人

プレド

サロベル湖の漁師

ピラノイ

サロベル湖のリザードマン

ロゴロゴス

リザードマンの長老

リザードマンの長老

リザードマン

ルドルルブ

リザードマンの指揮官

ゴプリ

老兵

シャベルト

学者

ヘセント

騎士、シャベルトの護衛

パン吉

シャベルトのペット


ソロン

シャベルトの師、エルフ

ルミセフ

トレビプトの王

ケフナ

内務大臣

 ケフナには息子が一人いたが三十の手前で病死した。孫もおらず、跡を継ぐような者はいない。養子の話が何度もあったが、家名を残すため、見知らぬ他人を自分の子として認めることにどうしても抵抗があった。欲が無いと思われ、王に気に入られ、内務大臣にまで出世した。

外務大臣

ヨパスタ

オランザ

財務大臣

ペックス

軍事顧問

トパリル

情報部

モディオル

軍人

カルデ

軍人

スルガムヌ

軍人


人間

兵士

ダナトリル

国軍、アリゾム山に侵攻。

モーバブ

ダナトルリの家臣。

国軍伝令


兵士

兵士

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