第十八話、エルフ、ソロン
文字数 2,395文字
幾度となく、寄り道を繰り返しながら、シャベルトの師ソロンがいると言われているグリオム山中腹にシャベルト一行は、ようやくたどり着いた。少し開けた場所で、古い山小屋が一軒見えた。
がさりと、背後から音がした。
木々の間だから、杖をもった太めの、背の高い男が出てきた。
ヘセントは、とっさに剣の柄に手をかけたが、男の杖が、ヘセントの手に軽く打ち込まれ、封じられた。
シャベルトは二人の間に立った。ソロンはしばしシャベルトとヘセントを眺めた。
ヘセントは頭を下げた。
ソロンは笑いながら言ったが、目は笑っていない。
小屋の中は、広くはないがこざっぱりしていた。三人は椅子に座った。
ヘセントの目は泳いでいた。
シャベルトは、ドワーフが村を燃やしてエルリムにまで攻めてきたことを、ドワーフがバリイに攻め込んできた理由を調査するよう領主に頼まれたことを話した。
ソロンはしばし宙を見つめた。
ソロンはため息をついた。
寿命が長いエルフは、古い歴史を、口承によって伝えていく文化がある。
ドワーフの寿命は三百年程度、エルフとは感覚が違う。
ヘセントはこぶしを握りしめた。
「まったく、その通りだよ。奴の選択は間違っているとしか思えん。奴には奴の事情があるかもしれんがね。村を焼いたのは、おそらく、そこに人が戻ってこないようにするためだろう。噴火が起きれば、ギリム山周辺はどのみち火の海になる。避難の二度手間になるのを防ごうと考えたのかもしれん」
「ふむ、かもしれん。かもしれんが、そう思わない者もいたのだろう。噴火が起これば天候も狂う。食糧の確保も難しくなる。人間は自分の食い扶持を減らしてドワーフに食べ物を与えるだろうか。一年や二年の話ではないのだ。数十年、かかるやもしれん。ドワーフと人間は同族ではない。人間はそこまで寛容か、ドワーフはそこまで我慢強いか。国を失った者の末路は悲惨だ。帰れたところで、そこは、元のギリム山ではないかもしれん。流浪の民として生きるよりも、たとえ身勝手だとしても、どこかに自分達の居場所を手に入れたい。そう考えたのかもしれない」
少し驚いた表情をした。
「ええ、ですが、先生はエルフです。少し太っていて、見栄えは悪いですが、エルフです。オークと間違われて討伐される危険性はありますが、ドワーフの王と知り合いならば、捕まり殺される可能性は少ないのではないですか」
シャベルトは立ち上がろうとした。
ソロンはにらみつけた。
ヘセントは立ち上がった。
シャベルトは言った。