第2章 第3話

文字数 1,459文字

 鎌倉に行くのは子供の頃の家族旅行以来である。正直どこに行ったか全く記憶にない。スマホで色々と検索し、大まかな行程を考えてみる。
 
 自由研究の課題が『鎌倉時代の仏像』なので、東慶寺は外せまい。ここには釈迦如来坐像、水月観音菩薩半跏像などの有名な鎌倉時代の仏像がある。あとは鎌倉国宝館か。ここにもこの時代の仏像があった筈だ。すぐ近くに鶴岡八幡宮があるな。要チェックだ。長谷寺の鎌倉大仏も仏像と言えば仏像なので、一応ここもチェック入れておこう。

 グーグルマップでそれぞれお気に入りにチェックすると、見事に三角形を描いていた。車なら簡単に廻れるのだが、これを電車や徒歩となるとよく考えねば。九月に入ったとはいえ酷暑は未だ続いている。気をつけねば熱中症もありえるな……

 気がつくと夜は更け、十時を回っている。ラインを見るといつの間にか既読が付き、返信が入っている!
『調べてくれてありがとう。明日何時に何処で待ち合わせようか?』
 慌てて返信をする。
『今、明日の行程を考え中―― 取り敢えず九時に川越駅のスタバ周辺でヨロ』
 瞬時に既読がつく。自然にニヤけてしまう。
『ありがとう。楽しみだね。おやすみーー』
 おやすみ、のスタンプを押す。

 未だ嘗てない胸の暖かさに冷房で冷えきった部屋の温度が上がった気がする。

 それからグーグルマップと鎌倉の街の情報に首っ引きとなり、一応コースのイメージが出来上がって時計を見ると既に三時を過ぎていた…

 部屋の電気を切りベッドに入り込む。そう言えば女子とのデートで前日これ程頭を悩ませるのは初めてだ。大体その前日は如何に相手をラブホに連れ込むか、どうすればヤレるか、ばかり考えていた。
 これはデートではない、自由研究の共同作業だ、そう言い聞かせて目を瞑るのだが、全く睡魔が近寄ってこない。瞼の裏に浮かぶのは星野美月のしなやかで細身の裸体である。
 いい加減にしろ、アイツは今までの女とは違う! ヤルだけの相手なんかじゃない! そう自分にどれほど言い聞かせただろう。然し乍ら俺の下半身はそれを硬くなに否定する。彼女に謝りつつそれを鎮める作業を三回ほど行う。
 ようやく頭と下半身が彼女に対する認識を改めた頃、窓の外はすっかり明るくなっていた。

 スマホの目覚ましにビクッと反応する。結局熟睡することはなくまんじりと朝を迎えてしまう。外は呆れるほどの快晴だ。気温はどれ程上がるのだろうか。
 冷たいシャワーを浴びるもスッキリしない。こんな事は初めてだ。一体俺に何が起きたというのだろう……
 
 食欲も無いまま母親が作ってくれた朝食をつまむ。
「夕ご飯はどうするのケイちゃん?」
「あーー、どうすっかなーー 食べてくる、かも……」
「夕方連絡ちょうだい。って、あなたすごい顔してるわよーーちゃんと寝たの?」
「なんだかなーー 全然寝れんかった。」
「今日も暑くなるんだからーー倒れないように水分はちゃんと取るのよ。」
「わかってる……」
「ふふ。で、今日は誰とお出かけ?」
「学校の友達。」
「女の子?」
「そう。」
「へーー。トモダチ、ねーー 何さんって言うの?」
「星野。星野美月。」
「あら…珍しい。」
「は、何が?」
「ケイちゃんが名前教えてくれるなんて えーー、なになに、そーゆー相手なの?」
「さーねー」
「なになにーー、みづきちゃん、へーー、今度連れていらっしゃいよーー、母さん会いたいわーー、どんな子なの、写真は?」

 何俺より先に下の名前呼んじゃってんだか… 食いつくお袋を軽くいなしつつ朝食を終え、半分ボーッとした頭のまま家を出る。
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