第2章 第5話

文字数 1,109文字

 東武東上線の池袋まではお互い照れと緊張でロクな会話が成立しなかった。何しろ彼女がいつにも増して無口なのに閉口してしまう。話題を振ってもありきたりな返答。話が全く続かない。
 池袋に着いて湘南新宿ラインに乗り換える。北鎌倉駅まで約一時間。このままでは……

「なあ、星野美月。」
「な、なに?」
「俺たち今日、なんか変じゃね?」
 下ばかり見ていた彼女が初めて顔を上げ、
「だってーー 早乙女くんは慣れているからこういうのーー でも私――」
 顔を赤く染めながら彼女は俺の目を見る

「私、男子と二人で出かけるの、初めてなの。」

 星野美月の一言に胸を撃ち抜かれた!

「ま、マジか? って、嘘だろそんなの、」
「本当。マジ。」
「ってお前、本当に今まで付き合った彼いないの?」
「何度も言うけど、一人もいませんっ」
「マジで? みんな結構お前のこと狙ってるけどーー」
「んーー、私どうやら好かれるより好きになるタイプかも。」
「何それって告られても心動かないってこと?」
「好きでもない人に告られてもーー全く動かないなあー」
「さては、惚れてる奴いるとか?」
「……早乙女くんは? 今彼女いないの? 好きな子は?」
「何食いついてきてんだよ! 今お前の事聞いてんだけど!」
「あー、誤魔化した! さてはいるんだなーー」
「いねえし。そんな暇ねえし!」
「鈴木さんとは続いてないの?」
「それいつの話だよとっくに終わってるよ去年だよ知らねえよ。」
「田中さんとは?」
「田中とは付き合ってねえよちょっと一緒に遊んだだけだし別に今は連絡もとってねえし。」
「何その必死の弁明。一番最近の彼女は誰だったの?」
「ハア? それお前に言うと思う?」
「二年生のブラバンの子でしょ?」
「怖えよお前何で知ってんだよ!」
「だって、早乙女くんの話っていつも女子の中で話題になっているからーー」
「は? お前いっつも一人じゃん、そんなこと話す友達いんのかよ?」
「噂っていうのはね、友達じゃなくても共通の話題となる事なの。」
「それ言うなら、お前だって去年うちのサッカー部の吉田に告られただろ、そん時付き合っている人がいるから、って断ったんだってな?」
「んーー、覚えてない。」
「は? お前、吉田いい奴なのに… 覚えてない、だと…」
「だって。それって文化祭前でしょ、なんか急に五、六人から告られてーー誰が誰なんて覚えてないわ。」
「……やるじゃねえか…… 恐るべし伝説の星野美月……」
「何よ伝説ってーー どうせロクでもない噂話でしょ?」
「聞きたい? お前の都市伝説、聞きたい?」
「都市伝説って…… ホント馬鹿らしい。で?」
「聞くのか? マジで聞いちゃうのか?」

 星野が呆れ顔で、

「ねえ、北鎌倉って次じゃない?」
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