第6章 第1話

文字数 1,015文字

 平穏な生活が続く。

 今では熾烈な受験勉強ですら、心の安らぎに組み込まれている。水月と一緒に下校し、予備校へ通い、予備校の帰りにファミレスに寄り。家まで送って行き、寝る前に二人で取り決めた『十五分電話』の後に布団に入り。

 土日は予備校の模試や強化科目の補講に出てから、お互いの家で勉強会。初めて俺の家に連れてきた時の親父のキョドリ具合は死ぬまで言い続けてやる!

「き、君が、ミヅキちゃん! うわー、可愛いね、そこらのアイドルよりずっと素敵だよー、綺麗な髪だねー、ねね、彼氏いるのー?」

 突如水月を口説き始める親父。そんな親父に一言。

「お父様、ケイくんそっくり、ですねニヤリ」
「そ、そうかなー、顔はあんまり似てないでしょー」
「いえ。その手の早そうな所が、ですニコリ」

 三秒で顔が真っ赤になり、でへ、でへっと気味悪い呻き声をあげる親父に、
「でもそんなお父様も素敵ですよ。これからもよろしくお願いしますね。」
 ガクガク頭を下げる親父。おい。軽くあしらわれてんじゃねえよ…

 季節は移ろい、コートが必要な日が多くなってくる。ふとスマホのカレンダーを見ると、『洋輔、バイク』と書かれている事に気付く。

 そうだ。今月末のいずれかの日、洋輔がバイクで左脚切断の大事故を起こすのだ。

「駿太さあ、洋輔って今でもバイクよく使ってんのかねー」
 洋輔がいないのを見計らい、駿太に聞いてみる。
「んーーー、どーだろー、土日とかに乗ってんじゃね?」
 この夏までは俺より遥かに成績が良かったのだが、夏以降俺の後塵を拝している駿太は最近俺をライバル視し、少し距離を置かれている気がする。

「そっか。あのさ、今度の日曜、みんなに声かけて勉強会しね?」
 駿太が俺を一瞥し、
「ミヅキちゃんと勉強すんじゃねーの?」
「家族で墓参りだと。」
「ふーん。いーけど。色々教えてくれますか早乙女さん!」
「なんか… 棘が… いたっ!」
 と胸をおさえると、駿太がプッと吹き出し
「はーー。やっぱ、オマエにはかなわねーわ。おっけ。勉強しよ勉強。共に励もうぞ!」
「洋輔も誘おうぜ。あとー」
「えーなになにー、勉強会―? いーじゃん、しよしよ。」
 と言って、おかん吉村円佳が話に割り込んでくる。
「おーーー! やりますかー! ヤルかー!」
「は? 駿太エロい。キモい。バカじゃね?」
「まどかー、最近冷たくねー?」
「ウッザ。美月は来れないんかーちぇっ、ケイと美月、イジメ抜こうと思ったのに…」
 怖えよ、おかん…
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