第5章 第8話
文字数 1,188文字
水月の家を出てバス停まで走る。着いてから確認すると後五分ほどでバスが来る。里奈に電話をかけるー出ない。メッセージで今何処だと送ると学校を出たところだと返信が来る。大山の駅で待ち合わせることにし、時刻通りに来たバスに飛び乗る。
何があったのか尋ねても会ってから話す、との返信だ。イマイチ要領を得ない。イライラしながらも電車は今日も大山駅に到着する。
改札を出ると柱に寄りかかった里奈が目に入る。駆け寄って、
「どうした、大丈夫か?」
泣き腫らした目の他は特に衣服の汚れや肌に傷なども見えず、
「家まで送ってやる。歩けるな?」
無言で頷き、俺の腕にしがみついてくる。
家までの道中、何を聞いても首を振るばかりだ。相当ショックを受けているようだ。どうして学校にいたかを聞くとサッカー部の試合を観に行っていたとだけか細い声で答える。
家に着くと部屋は暗いままで母親は不在らしい。階段を昇り角の部屋に来ると里奈は部屋の鍵を取り出し震える手でノブに差し込もうとするが…
「貸せ、俺が開ける。」
ドアを開けるとムッとした空気が立ち込めている。狭い玄関には靴が散らばっており、空き缶―ビール缶やペットボトルが詰め込まれた袋が二、三転がっている。
水月の家とのギャップに苦笑しつつ、里奈を部屋に抱え入れる。2DKの狭い部屋はとても女性二人が住んでいるとは思えない乱雑さで落ち着ける環境ではない。
ソファーはなく畳に直接腰を下ろすと里奈も俺の横にチョコンと座る。
「で。何があった?」
「試合終わって、帰ろうとしたら、Aチームの人に、昨日頭にボール当たって大変だったんだろ、って声かけられて、ちょっと診てあげるからこっち来なって言われて、付いて行ったら誰もいないトレーニングルームで、いきなり抱きしめられて… 無理やりキスされて…」
声が震え、涙がポロポロ流れ出す。思わず肩を抱き寄せると里奈が俺にしがみついてくる。あまりの勢いに畳の上に倒れてしまう。
里奈が俺の上に押し倒す体勢―そして顔と顔が近い。そう思った瞬間、里奈に唇を奪われていた……
その口付けは懐かしさ半分、新鮮さ半分だった。元の世界での里奈はこんなキスをしなかった。もっと性的に貪欲なキスだった。舌を存分に動かし俺の官能をガシガシ引き出すような肉食女子ならではのものだった。
しかし今、里奈は唇をきつく押し当ててはいるものの、それ以上の動作はなく、如何にも高校生のそれ、であった。
元の世界での里奈との目眩く官能の生活が懐かしく思い出されるものの、それが再現される予感は全く無く、俺は優しく後頭部を撫でてやるだけだった。
ドアの鍵が開けられる音がした、母親が帰ってきた!
俺は慌てて起き上がり、暗かった部屋の電気を点け…
「ただいm― 誰アンタ? 何してんの!」
そこには元の世界の里奈そのものの派手な女性が買い物袋を下げ仁王立ちしているー
何があったのか尋ねても会ってから話す、との返信だ。イマイチ要領を得ない。イライラしながらも電車は今日も大山駅に到着する。
改札を出ると柱に寄りかかった里奈が目に入る。駆け寄って、
「どうした、大丈夫か?」
泣き腫らした目の他は特に衣服の汚れや肌に傷なども見えず、
「家まで送ってやる。歩けるな?」
無言で頷き、俺の腕にしがみついてくる。
家までの道中、何を聞いても首を振るばかりだ。相当ショックを受けているようだ。どうして学校にいたかを聞くとサッカー部の試合を観に行っていたとだけか細い声で答える。
家に着くと部屋は暗いままで母親は不在らしい。階段を昇り角の部屋に来ると里奈は部屋の鍵を取り出し震える手でノブに差し込もうとするが…
「貸せ、俺が開ける。」
ドアを開けるとムッとした空気が立ち込めている。狭い玄関には靴が散らばっており、空き缶―ビール缶やペットボトルが詰め込まれた袋が二、三転がっている。
水月の家とのギャップに苦笑しつつ、里奈を部屋に抱え入れる。2DKの狭い部屋はとても女性二人が住んでいるとは思えない乱雑さで落ち着ける環境ではない。
ソファーはなく畳に直接腰を下ろすと里奈も俺の横にチョコンと座る。
「で。何があった?」
「試合終わって、帰ろうとしたら、Aチームの人に、昨日頭にボール当たって大変だったんだろ、って声かけられて、ちょっと診てあげるからこっち来なって言われて、付いて行ったら誰もいないトレーニングルームで、いきなり抱きしめられて… 無理やりキスされて…」
声が震え、涙がポロポロ流れ出す。思わず肩を抱き寄せると里奈が俺にしがみついてくる。あまりの勢いに畳の上に倒れてしまう。
里奈が俺の上に押し倒す体勢―そして顔と顔が近い。そう思った瞬間、里奈に唇を奪われていた……
その口付けは懐かしさ半分、新鮮さ半分だった。元の世界での里奈はこんなキスをしなかった。もっと性的に貪欲なキスだった。舌を存分に動かし俺の官能をガシガシ引き出すような肉食女子ならではのものだった。
しかし今、里奈は唇をきつく押し当ててはいるものの、それ以上の動作はなく、如何にも高校生のそれ、であった。
元の世界での里奈との目眩く官能の生活が懐かしく思い出されるものの、それが再現される予感は全く無く、俺は優しく後頭部を撫でてやるだけだった。
ドアの鍵が開けられる音がした、母親が帰ってきた!
俺は慌てて起き上がり、暗かった部屋の電気を点け…
「ただいm― 誰アンタ? 何してんの!」
そこには元の世界の里奈そのものの派手な女性が買い物袋を下げ仁王立ちしているー