第6章 第5話

文字数 1,250文字

 秋も終わりに近づき、間も無く冬の訪れだ。令和元年は夏が酷暑で冬は確か暖冬だったはずだ。雪が殆ど降らず、そう言えば思い出した! 中国で発生したコロナウイルスで年明け後の日本も世界も大騒ぎになったのだ。受験シーズンにはインフルエンザの流行も加わり、外出時にはマスクが欠かせなかった。

 もし俺に山っ気があるなら、今からマスクを買い占めて置くところなのだが。そんな事より、受験と水月と、仲間たちの事で頭がいっぱいなのだ。

 洋輔がバイクで事故ったであろう令和元年十一月二十四日。朝からグズついた天気でお世辞にも遊園地日和では無い。それでも俺たちは十時に川越駅で待ち合わせる。
 東上線で池袋まで行き、丸ノ内線で後楽園駅で降りる。約一時間で小雨交じりの東京ドームに到着する。

「ったく、誰だ雨男! 乃至は雨女!」
「すまん。俺だわきっと…」

 洋輔が苦笑いしながら即答する。そう言えばサッカーの試合も今思うと雨の日が多かった気が……
「大丈夫よ洋輔くん。私、晴れ女だから。ね、ケイくん!」
 水月が胸を張って主張する。ま、確かにこいつと出かける時に雨が降った記憶は、無い。
「ってことは〜、昼からは晴れ! ってことじゃん?」
 何の根拠も脈絡も無く吉村円佳が吼える。この熱血おかんが雨雲を追いやるのではないだろうか?

「じゃあさ、雨止むまでゲーセン行こ、ゲーセン!」
 駿太が満面の笑みで問いかける。
「私、ボーリングがいいなあ。あとボルダリングとかもー」
 菊池穂乃果が穏やかに提案する。
「いえ。それは後回しにして、折角ここに来たのだから、水戸徳川家の『後楽園』を散策しましょう。」
 俺を含む全員が「ないない」と首を振ると水月は肩を落とし凹む。
「洋輔、どうしたい?」
「うーん、ちょっと早いけどさ、昼ごはん食べちゃわない? 食べ終わる頃には雨上がっているかも?」
 俺を含む全員が「いーね」。遊園地に隣接するイタリアンレストランに六人で入る。

 ちょいとお高めだがそれぞれが注文し、食後の行動について議論が再開されるー
「ミヅキ。あんた自分でウチら遊びに誘っておいて、遊園地に誘っておいて、アンタ勉強しよーとしたっしょ。何が水戸徳川家だっつーの。マジウケるわアンタ。」
「だって。ここの庭園は水戸光圀が……」
「みづきチャーン… 庭園は無いわー。俺ら高校生だしー そーゆーの還暦過ぎたらみんなで行こーよー」
「そ、そんな… 庭園の紅葉を眺めながら、造園の美を…」
「みづき。それはケイくんと二人きりで今度行っといで。」

 皆から集中砲火を受け落ち込む水月を笑いながら眺める。
「そ、それは遊園地も楽しみよ。ジェットコースターも早く乗りたいし。そう、早くね…」
 皆がニヤリとほくそ笑む。
「絶対、苦手だな?」
「間違いない。」
「えー、実はうちもー」
「そーゆーのいいからオカン。それよりさー、やっぱ最初ゲーセン…」
「んだよオカンって。タヒね!」

 ちっとも纏まらない。でもなんだかそれも楽しい。結局、デザートを食べ終わる頃になんとか今後のスケジュールが確定する。
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