第7章 第8話
文字数 1,414文字
師走の終わりも二年前同様、とても穏やかな陽気だ。予備校は三十日で終了、再開は四日からだ。受験まで丁度二ヶ月である。
二年前と違うのは。
あの時は水月の気持ちを疎ましく思い、予備校から一人で帰るようになり、帰宅後も親と口も聞かず部屋に篭りひたすら勉強していた。年末年始も殆どリビングに降りず、自室に籠もっていた。
「ケイちゃん、あんた勉強大丈夫? 大掃除なんて手伝わなくっていいわよ、勉強したら?」
「息抜き、息抜き。だってあの親父ですらちゃんとやってんだし。」
「ホントよねー、絶対明日の大晦日、大雪が降るわー」
「親父… 会社の方、大丈夫なのか?」
「仕事自体は今まで通りみたいだけどー 人間関係が大分変わったみたいよ。でも前ほどガツガツしてなくて、いいんじゃない今のままで。」
「そっか。それならいいんだけど。」
「洋輔君、調子はどうなの?」
「リハビリは大変そうだけど。勉強頑張ってるよ。入学式は車椅子じゃなく義足で歩いて出席するってさ。」
「…なんとか、なんとか合格させてあげたいねー」
「ああ。だからずっと毎日勉強会。受験日終わるまで。」
「美月ちゃんも一緒なのね?」
「うん。最近ウチに来れなくて寂しがってるよー。話したっけ? アイツの兄貴がとんでもねえシスコンでさ、こないだもー」
突如、お袋が俺にしがみついてくる。
「ケイちゃん… あんた変わったんじゃない… 別のケイちゃん、なんだよね?」
俺は一瞬で頭が真っ白になる。
「は…… 何、言ってんだよ…」
「ケイちゃんはケイちゃんなんだけど… あなたは別のケイちゃん。どっかから来た、他のケイちゃん。そうよね。だって、顔も声も匂いもそのままだよ、でも全然違うから。変わったんじゃない。替わったのね。どうして、ねえどうして? 夏までのケイちゃんは何処行っちゃったの? あなたは何処から来たの?」
俺はお袋をギュッと抱きしめながら
「何… 言ってんだよ。俺は、俺。たとえ俺がどっかから来たとしてもさ、お袋の息子には変わりねえだろ」
「そうだけど。そうだけどさ、夏までのさ、自分の事で精一杯で周りが何も見えなかったケイちゃんはさ、何処に… 何処に行って… 何してて…」
「…俺も、よくわかんねえんだよ… よくわかんねえから、ありのままを受け入れてやってるだけなんだよ… ダメかなこのままじゃ?」
震えながら訴える俺をお袋が更に力を込めて抱きしめる
「いいのよ、いいの。うん、あんたはこのままで。このままでいなさい。いいわね。今まで通りに」
「うん…」
どうして… お袋は気づいたのだろう、俺が別の俺であることを…
そしてどうしてお袋はすんなりそれを受け入れてくれるのだろう。俺は外見は同じだが中身が別の息子を受け入れられるだろうか。こればかりは自分が親になってみないとわからない。
親父は全く気付いてないようだけど。やはり母親って凄い。今の俺よりも、夏までの自己中の俺はどうなったのかを心配している。出来の悪い子ほど可愛い、のだろうか。
二年前から来たことは知らないが、俺が俺と入れ替わったことをハッキリと認識された。だが母の言う通り、変に意識することなくやって行こうと思う。
但しー
「あのさ。マスク、とトイレットペーパー。買い置きしておこうよ。午後買い物付き合うからさー」
「…… わかったよ。ふふ。ふふふ。」
何がわかったのか。ニヤニヤ笑い出す母の心は読めないが、母の瞳に映る優しさは今の俺なら難なく分かる。
二年前と違うのは。
あの時は水月の気持ちを疎ましく思い、予備校から一人で帰るようになり、帰宅後も親と口も聞かず部屋に篭りひたすら勉強していた。年末年始も殆どリビングに降りず、自室に籠もっていた。
「ケイちゃん、あんた勉強大丈夫? 大掃除なんて手伝わなくっていいわよ、勉強したら?」
「息抜き、息抜き。だってあの親父ですらちゃんとやってんだし。」
「ホントよねー、絶対明日の大晦日、大雪が降るわー」
「親父… 会社の方、大丈夫なのか?」
「仕事自体は今まで通りみたいだけどー 人間関係が大分変わったみたいよ。でも前ほどガツガツしてなくて、いいんじゃない今のままで。」
「そっか。それならいいんだけど。」
「洋輔君、調子はどうなの?」
「リハビリは大変そうだけど。勉強頑張ってるよ。入学式は車椅子じゃなく義足で歩いて出席するってさ。」
「…なんとか、なんとか合格させてあげたいねー」
「ああ。だからずっと毎日勉強会。受験日終わるまで。」
「美月ちゃんも一緒なのね?」
「うん。最近ウチに来れなくて寂しがってるよー。話したっけ? アイツの兄貴がとんでもねえシスコンでさ、こないだもー」
突如、お袋が俺にしがみついてくる。
「ケイちゃん… あんた変わったんじゃない… 別のケイちゃん、なんだよね?」
俺は一瞬で頭が真っ白になる。
「は…… 何、言ってんだよ…」
「ケイちゃんはケイちゃんなんだけど… あなたは別のケイちゃん。どっかから来た、他のケイちゃん。そうよね。だって、顔も声も匂いもそのままだよ、でも全然違うから。変わったんじゃない。替わったのね。どうして、ねえどうして? 夏までのケイちゃんは何処行っちゃったの? あなたは何処から来たの?」
俺はお袋をギュッと抱きしめながら
「何… 言ってんだよ。俺は、俺。たとえ俺がどっかから来たとしてもさ、お袋の息子には変わりねえだろ」
「そうだけど。そうだけどさ、夏までのさ、自分の事で精一杯で周りが何も見えなかったケイちゃんはさ、何処に… 何処に行って… 何してて…」
「…俺も、よくわかんねえんだよ… よくわかんねえから、ありのままを受け入れてやってるだけなんだよ… ダメかなこのままじゃ?」
震えながら訴える俺をお袋が更に力を込めて抱きしめる
「いいのよ、いいの。うん、あんたはこのままで。このままでいなさい。いいわね。今まで通りに」
「うん…」
どうして… お袋は気づいたのだろう、俺が別の俺であることを…
そしてどうしてお袋はすんなりそれを受け入れてくれるのだろう。俺は外見は同じだが中身が別の息子を受け入れられるだろうか。こればかりは自分が親になってみないとわからない。
親父は全く気付いてないようだけど。やはり母親って凄い。今の俺よりも、夏までの自己中の俺はどうなったのかを心配している。出来の悪い子ほど可愛い、のだろうか。
二年前から来たことは知らないが、俺が俺と入れ替わったことをハッキリと認識された。だが母の言う通り、変に意識することなくやって行こうと思う。
但しー
「あのさ。マスク、とトイレットペーパー。買い置きしておこうよ。午後買い物付き合うからさー」
「…… わかったよ。ふふ。ふふふ。」
何がわかったのか。ニヤニヤ笑い出す母の心は読めないが、母の瞳に映る優しさは今の俺なら難なく分かる。