第1章 第3話

文字数 810文字

 彼女は評判の容姿で男子の人気コンテストでは常に三位以内に入っていた。友人とつるまず日頃読書ばかりしており、彼女と言葉を交わした男子はいないとの都市伝説が流れていた。それでも長い黒髪、端正で小柄な顔立ち、細身でスタイル良し、成績も常に上位10%以内。

 そんな青春マンガやアニメのヒロインの様な彼女は、常に男子による争奪戦が繰り広げられていた筈だ。
 筈だ、というのは、俺は一年次から彼女を切らしたことがなくーサッカー部で一年からレギュラー、文系科目は学年十位以内、まあ陽気で仲間思いの性格。毎月のように女子から告られて、特に好きでもなく何となく彼女達と付き合っていたーなのでその彼女達への対応が忙しく、他の女子を物色する暇が無かったのだ。

 三年になり、大学受験が目の前に明確に聳え立つと浮ついた恋は激減する。授業、予備校、勉強で忙しくなって初めて俺は星野美月を認識した。

 確か一学期の古文の中間テストで俺が二位、彼女が一位を取った時、どんな参考書を使っているのか尋ねたのがきっかけだった。

 それから俺と彼女は同じ予備校だった事もあり、週二程度で一緒に勉強するようになる。今思うとこれも立派なデートなのだが、当時は恋よりも進学が優先であり、彼女を一人の女子として相対する余裕は無かった。
 夏休みはほぼ毎日一緒に予備校に通い、互いの弱点科目を補い合った。俺は今でこそ日本史の講師をしているのだが、当時は日本史が最弱点なのであった。逆に彼女は日本史の予備校のテストで常に上位に名を連ねていた。

「歴史はね、興味を持つ事。これに限るわ。早乙女くんは時代小説とか読まないの?」
「俺、本は全然。マンガとかアニメ、かな。」
「それならば、歴史物の漫画を読んだら? 私は漫画を読まないからよくわからないけど。」
「ふーん。後でブックオフ付き合ってくんね?」
「ええいいわ。」

 そこで俺は今でも塾の授業で使用する一連の歴史マンガと出会ったのだった。
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