第6章 第4話

文字数 1,350文字

 十一月も中旬を過ぎ、間も無く下旬が近づいてくる。俺は確実な日にちの特定もできず、そして有効と思える対策も思いつかず、悶々と過ごしている。

 今日も予備校を終え、すっかり吐く息が白くなった夜の駅までの道を水月と歩いている。彼女と一緒にいても洋輔のことがどうしても頭から離れず、勘のいい水月はとっくに気付いていてそれでも俺に気を使いその事には何も触れないでいてくれる。

 しかしそれが数週間にもなると、水月のその気遣いが俺にとって却って重荷となってくる。いっそのこと全てを彼女に話してしまいたい誘惑に何度駆られたことだろう。
 だがそうなるとーここまで培った二人の関係がどうなるか? その恐怖に身動きが取れなく、悶々とする日が過ぎていく。

 そんなある夜。我慢の臨界点を超えたのであろう、水月が急に、
「洋輔くんのこと、どうなったのかな…」
 俺の目をしっかりと見据えて聞いてくる。

「実はさ… 理由は言いたくない、聞かれたくないんだ、それでも良い?」
 キョトンとした顔で水月の眉が顰められる。しばらくして、
「…わかった。で?」
 俺は全てを話す勇気がなく。それでも縋る思いでポツリポツリ話し始める。
「どうしても… 洋輔を月末の… おそらく二十四日に… 絶対バイクに乗せたくない、んだ」
 
 水月は大きく息を吸い込み、天を仰ぐ。やがてゆっくりと息を吐き出しながら、
「…… わかった。理由は聞かない。じゃあ、その日、みんなで遊びに行こ!」
「へ?」
「だってみんなで遊びに行けば、洋輔くんバイクに乗らなくて済むでしょ?」

 な、成る程。それはそうだ。確かに。しかし受験勉強の佳境の最中に…? しかもその日は俺と水月は予備校の模試が…
「サボろ。いいじゃん、一日くらい。」
「わかった。でも俺らはそれでいいとして、洋輔たちは…」
「だから、息抜きにみんなで行こうっ、て言えば、どうかな?」
「いい。それ、いい。そうしよう。うん、流石水月!」
「そーゆーのいいから。で、どこに行こうか?」

 俺は綺麗な月を見上げながら考える。みんなで、遊びに。どこがいいか…
「あのさ、遊園地とか、どうかな? 東京ドームシティーとか…」
「…… なんか、そんなアニメあったな。川越の中学生がみんなでそこに行って遊ぶ、みたいな」
「そうなの? よく知らないけど。」

 ああそうだよ、水月。ああ、月が綺麗だ……

「いーーじゃん! 行く! マジ行く!」
 吉村円佳が大賛成してくれる。
「どーゆー風の吹き回しだかー でも、悪くない。いやむしろそれしか無い!」
 駿太も即決。
「んーー、俺その日、久しぶりに遠乗りしようかと思ってたんだよなー」
 
 洋輔の一言に心臓が口から飛び出るほどビックリする。そうだ。やはりこの日に間違い無いんだ。慌てて翻意させようと口を開きかけた瞬間、
「みんなで遊園地、行こうよ! 洋輔くん」
 洋輔が水月を驚いた表情で見て、
「みんなで、遊園地、か。うーん。」
 水月が洋輔の腕を取り、
「ね、行こ!」
 余りの水月のしつこさに洋輔は苦笑いしながら、
「はは、なんか珍しいじゃん、みづきちゃん。でも。うん。みんなではしゃげるのって、受験終わるまでそんなに無いし、な。うん。行こうか。みんなで!」

 皆が声をあげて喜ぶ。俺は一人ホッと胸をなで下ろす。

 これでいい。いいはずだ。
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