第8章 第2話

文字数 949文字

 元の世界のことを思い出してみる。
 確かこの月末ぐらいからコロナウイルス騒動で日本中が大騒ぎになり、危うく俺たちの大学受験も延期になりそうだったのだが、何とか受験自体は行われ、四月からズーム主体の大学生活が始まったのだった。

 社会活動は乱れに乱れ、トイレットペーパーの買い占め騒動や学校の一斉休校、会社員のテレワーク化などで受験生にとっては勉強にとても集中出来ない状態だった。

 この世界でも同じことが起こるのだろうか。それを心配し、年末からお袋を焚きつけマスク、トイレットペーパーなどの紙類は大量に確保してある。

 どちらにせよ、俺たちの本番まであと二ヶ月。社会の混乱に巻き込まれることなく、粛々と己の実力を磨き上げることが先決だ。

 そう考え、三ヶ日以降、予備校そして病院での勉強会に俺は集中し、水月や洋輔、駿太らも巻き込み試験日を見据え切磋琢磨し合っている。

 洋輔の怪我からの回復は今月に入り目を見張るものがあるそうだ。もう普通の生活に関しては他人の助けなく大体出来るようになっている。
 そしてやや出遅れていた勉強の方も俺たちにほぼ追いついており、学力的には俺たちと受験しても全く問題のないレベルに来ている。

 水月も駿太も、菊池穂乃果もあと小宮卓や間旬たちも順調に仕上がっているようだ。そんな中でただ一人、オカンこと吉村円佳だけが受験勉強ルートから離れて我が道を行こうとしている……

「ウチさ、看護学校行こーかなって。いや、行く!」

 確かに生来の面倒見の良さは看護師に向いているのかも知れない。だがその動機がーあの栗栖さん、いや栗栖先生狙い、と言うのがなんだかなーなのだ。なのだが、本人は…

「てか、ウチしかいなくね? あのポンコツを支えられんの。その為には看護師になんなきゃ。え? いやもうウチ決めたし。願書出したし。」

 二年前、確か吉村円佳は駿河台辺りの大学に入り、文学に傾倒していた気がする。それがこうなるとは…

 最近の吉村は和田婦長を神のように崇め、看護学校受験の事やその後の学業について色々アドバイスを貰っているようだ。

 ルートは変わってしまったが、俺が見るに吉村なりに生き甲斐を見つけた、という感じかも知れない。皆も大きく声には出さないが彼女の変針に理解を示し、陰ながら応援している様子だ。
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