第1章 第9話

文字数 951文字

 朝食時、あの頃は普段決して読む事のなかった新聞を開く。親父が、

「流石受験生だな。意識が高くなってきたな。」
「それより父さん。車の車検そろそろだろ? ケチらないでちゃんとディラーでやっておけよ。」
「はあ? お前何でそんな事…」

 親父を無視して新聞を読む。全てがリアルだ。令和元年の夏のリアルそのままである。走馬灯に映る朧げな記憶だの光景などでは無い。確実な現実が俺の目の前に、有る!

「今年の秋はさ父さん、台風が多いから。洪水とか多いかも。」
「…どうしたんだ啓? 勉強し過ぎて頭おかしくなったのか?」
「実の息子に酷くね?」

 笑いながら親父と話していてまさかと思う。これは所謂、タイムスリップ、タイムリープというヤツなのでは無いだろうか?

 最近読んでいた小説に『この世は平行世界で出来ている』というのがあった。今生きている世界とは幾つもの平行した別の世界があり、そこには俺とは違う俺が生活していて… つまり早大生では無い俺が居て。空間の歪みだか何だかに入り込むと他の世界に行ってしまう。昔から言われる『人隠し』がこれに当たる、のだと。

 更にこのパラレルワールドは時間軸が同時進行ではなく、その世界毎に微妙にズレている、と。今俺が今いる世界は二年前の令和元年夏、の世界。だとするとこの世界に居た俺は何処に?

 確か二年前、星野美月と一緒にブックオフへ行った翌日、即ち今日、は大人買いしたマンガを母親と大喧嘩しながら読み漁り、歴史の楽しさに目覚めた日だった筈だ。

 俺は今、ネットを駆使しながらこのパラレルワールドについて色々調べている。『人隠し』の名所のような場所は都市伝説で数あまた有るらしい。俺が昨日事故った場所を調べてみたが、特にそのような名所に該当する事はなかった。

 またこのタイムスリップに関しても昔と今では考え方がかなり変わっているらしい。昔は歴史は一本道であり、過去に戻り歴史を変えてしまうと元いた世界が大きく変わっている、というのが王道だったようだが、最近ではこの平行世界と時間軸のズレの関係が主流のようで、別の平行世界の過去で何かを変えてしまっても元の世界には何の影響も残らない、らしい。

 故に過去世界で蝶を踏んづけたら現代社会の言語が変わってしまった、的なブラッドベリー現象は生じないらしい。
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