第2章 第11話

文字数 1,049文字

 帰りの電車の中で、ずっと俺たちは古今東西の表現の自由について語り合っていた。時にはスマホを駆使して。星野美月のスマホには何のフィルターもつけられていなかった、親の信頼度抜群だ。その恩恵を受け、相当豪快な表現の画像を見ながら批評しあったり。

 横浜から混雑し始めると流石に声を潜め、二人で隠れる様にスマホを眺める。途中、若い女性が口技をしている表情が昔のアニメのモビルスーツみたいにあまりに変で、星野美月の笑いのツボに入ってしまい、俺にしがみつきながら笑いを堪えたりしていた。

 考えてみれば高校生のカップルにあるまじき行為である。もし俺が親なら憤慨し二度と会うな、と怒鳴り散らすだろう。ましてや星野美月がこれ程この様な『エロ系』に食いついてくるとは思いもしなかった。

「それは興味はあるよ、フツーに。ただ、それを語り合う友達がいないからね。だからーー 今日はメチャ楽しかったよ。」
「そっかーー。なんかそーゆーのに全く興味ありません、って顔して歩いてんじゃんお前。だからちょいビックリだわ」
「一応、心身共に健全に発達していますから。でも『へ・ん・た・い先生』には敵いませんけどね。」
「俺を性欲の権化と決めつけないでくれますか。いたってノーマルと自負しているのですが」
「ご両親の信頼は無いけれど?」
「お前が信用され過ぎだろ」
「昔家のパソコンの履歴でお母さんに叱られなかった?」
「んっぐぐ お、お前何故それを…」

 川越駅に到着する。時間は九時をまわったところだ。夕食に誘うももう遅いから帰るとの事。彼女の家はバスで十分ほどと言う。バス停まで送っていくと次のバスまであと五分ほどだ。バス待ちの人は他に五人ほどか。

「今日はありがとう、色んなことがあったね、特に後半。大変貴重な経験をさせてもらいました。」
「なんか、自由研究の課題調べに行ったのが遠い過去の様な…」
「それっ 私たち、何しに鎌倉行ったんだっけ?」
「な。『デート』だったんじゃね?」

 星野美月の顔が真剣になる。

「早乙女くんは、そう思ったの?」
 俺は目を逸らさず、軽く頷く。
「ねえ… 家まで歩いて… 送ってくれない?」
 俺は微笑みながら深く頷く。

 夜空を見上げると雲の合間から綺麗に月が見えている。蒸し暑さが今日初めて心地良く感じる。もし手を繋げたら… 蒸し暑さなんて一切感じなかった今日一日だったんだろうな。

 ポケットに手を入れながら、昼間より確実に近い距離で寄り添い、俺たちは初秋の月夜に導かれ歩いて行くのであった、早く着きません様に、と祈りながら。
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