第5章 第12話

文字数 983文字

「うわー、これが学園一のモテ男、早乙女くんだー、うわーー」
「母さん、涎! 早乙女くん、初めまして。うわ、背高いね、カッコいいね、美月の言う通りだねー、サッカー上手いんだってね?」
「ゴメンねーお食事中にー って、何で今頃食べてるの? あーーー美月ちゃん、今までナニしてたのーーいやらしいー」
「だから母さん、落ち着きなさいってー って、ああいい匂い。美月、父さんたちの分もあるかい? 小腹が減っちゃったよー」
「どお? 美月ちゃんのお料理美味しいでしょ? 私より全然上手なのー って、最近じゃ美月ちゃんに任せっきり! どお、いい奥さんになるよおー」
「ねえ母さん、さ、着替えてこよう、それからゆっくり話そうよ。ね、早乙女くん。じゃあ美月、父さんたちの分もヨロシクー」

「…… なんか… ゴメンなさい…嘘ついちゃって…」
「… めっちゃ、話してんじゃん… ご両親に、俺のことー それに、この料理―全部お前が作ったー 何でお母さんが作ったなんて…?」
「ゴメンなさいっ だって、ケイくんに迷惑かなって…」
「迷惑って…? 」
「これから受験もあるし… ケイくんにとって重いかな、って…」
「いや… ちょっと、かなり驚いた、けど。心の準備が出来てなかったけど… でも、」
「…でも?」
「嬉しいよ。素直に。両親紹介してくれてー それに薙切えりなばりの美味そうな料理作ってくれて。」
「?」

 元の世界でも付き合った彼女の両親を紹介されたことはなかった。そして、俺も彼女を親に紹介した事はなかった。
 それぐらい、将来を見据えて女子と付き合ったことが無かったのだ。

 夕方、里奈の母親に言われて初めて気付いた。自分の子供が異性と付き合う時の親の葛藤。これまでの俺は自分の本能のまま、即ちヤリたいから付き合ってきた。その先の事なんて、将来の事なんて一切考えてこなかった。

 だからそれは本当の『付き合い』ではなかった。単なる欲望のぶつけ合いなのだ。男女の付き合いの本来の姿ではない。里奈の母親がそう俺に教えてくれた。

 そして、水月とは。俺が今まで知ろうともしなかった関係。

 水月の両親が二階から降りてくる足音を聞きながら、俺はこの今日知った新しい関係をしっかりと胸に刻み込む。覚悟を決める。水月を見つめる。水月が俺を見つめる。二人、照れ笑いをする。

「お邪魔しちゃうよー、水月ちゃん、ご飯出来た? あれ…まだ?」
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