第6章 第2話

文字数 1,862文字

 冷たい雨の降る日曜日。俺たちはいつものファミレスに集まり勉強半分、お喋り半分の時を過ごす。俺はなんとかして洋輔の事故を阻止したい。ので、最近の洋輔の行動形態を聞き出すのに集中する。

「バイク? そー言えば最近乗らないわー。寒くなってきたし。」
「そっか。もうすぐ受験だし、いっそ合格発表まで乗るのやめろよ。」
「へ? うーん、でもたまに気晴らしで乗りたくなるんだよなー」

 その気晴らしがお前の人生を狂わすんだ。
「じゃさ、今度乗る時俺も乗っけてよ。俺も気晴らししたい時あるしー」
 洋輔が首を傾げながら
「いいけど。なんで急に?」
 慌てて言い訳を考えるー
「いや、バイクって、いいなって最近思ってさ。水月乗せて走りたいな、なんてー」
 鼻で笑われる
「なんだよ。シミュレーションか。彼女持ちは余裕だねえー ま、いいけど。」
「ははは。まあ、そんなんだからー 連絡くれよ。バイク乗る時は! 事前に。出来れば前日に!」
「お、おお……」
 イマイチ納得いかない顔で洋輔は頷く。

「それより、美月ちゃんとうまく行ってんのか?」
 駿太、吉村円佳、菊池穂乃果、それに小宮卓、間旬らが一斉に食い付く。勉強しろよ……
「まあーなんとなくーこないだ両親紹介されたー」
 おおおおおおーー
 そ、そんなに驚く事、なのか…?

「そんでー最近はウチで一緒に勉強する事もー」
 これはもうアレだな、そーねもうアレね、しかしあのケイがなあ、それな、あの子超真面目そうだからまだアレじゃない、うーんケイだけにーそこはビミョー、お互い親に会わせるって…超本格的やね、これはもう将来決まったも同じだなー

「で。お前大学入ったら一人暮らしするって言ってたけど。それは『二人暮らし』と捉えて良いのかね?」
「頼む…… 勉強しよーぜ…オマエら… もう、これ以上…」
「わかったわかった。じゃあ最後に一つだけ! 二人はー」
「まだしてません。以上。」

 一同顔を見合わせながら納得しがたい顔でブツブツ言っているが。事実は事実だし。
「じゃあさ、ケイ、」
 洋輔がニヤリと笑いながらー
「美月ちゃんとそうなったら、バイク乗せてやるっ お祝いに!」
 
 洋輔、それは俺だってそうしたいのは山々だわ。でもな、相手の親のプレッシャーって凄えんだわこれが。二人暮らし? あり得ねえって。二人でお泊まり? 無理無理無理。どっちかの部屋で… いやいやいや、隠しカメラとか仕掛けられててこれからいざって時に『ただいまー』って帰ってくるに違いないって…

 なので、ここは妥協案としてー
「いやいや、乗せてくれたら、善処する。」
 洋輔は腕を組み
「んーーー。てか、なんでお前そんなに俺のバイクにこだわんの? 今まで乗っけろなんて一度も言わなかったよな。」
「だ、だから、いつか水月とツーリング…」
「んーーー。なんだかなー。ま、いいけど。」

 脇汗がすごい。親しい奴にウソやごまかしはしたくない。故に体が拒否反応を起こすのだ。頭では洋輔の為、と考えているのだが魂レベルでこの方法論としての虚偽を否定しているのだ。
 なんとか洋輔の事故を防ぎたい。だがその為にウソやごまかしをしたくない。

 では、どうすれば誠実でいられつつ事故を防げるだろうか?
 水月に相談したい。きっといい考えを思いついてくれるだろう。
 親父に相談したい。アホくさいが意外にイケそうな案を授けてくれそうだ。
 駿太に、仲間に相談したい。きっとみんなで洋輔がバイクに乗るのを止めるよう説得してくれそうだ。

 どれも叶わぬ想いだ。俺は一人でなんとかしなければならない。すでに洋輔は俺に不信感を抱いている。今頃何故急にバイクに乗せろなんて…
 それにだ。もし洋輔が渋々バイクに乗せてくれたとしよう。それが事故防止につながるのだろうか? 俺を送迎する前後に事故る可能性もある。なんなら俺を乗せたまま…

 一番手っ取り早いのは、友情を捨てて洋輔のバイクを走行不能にする! 鍵を隠す、単純に破壊工作をする、そして盗む、など。
 これは俺の洋輔を守りたい気持ちと良心との戦いだ。この葛藤に悩んでいるうちに事故は起きてしまうだろう。
 クソ… 事故の日をしっかりと思いだせればー その日を特定出来れば、やりようは色々あるの

 だがー

 ダメもとで洋輔に
「しつこいけどー 気分転換以外で、今月バイクに乗る用事ってあるのか?」
 洋輔は苦笑いしつつ
「まーじ、しつこいね。」
「…… だよな…」
「ケイ、らしくないよ。逆にどうしたのよ。マジで?」
「今度さ、ゆっくり話すわ。それっきゃ言えねえわ。」
「…… そか。じゃ、そん時に。」
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