第1章 第6話

文字数 635文字

 俺にとって里奈はその程度の女である。彼女の高校卒業後、初めて抱いた時もフツーに非処女だった。最近はバイトもあまりせず親の金で遊びまくっている。この間は渋谷のクラブに連れて行かれ、そこには彼女の知り合いがあちこちにいて、トイレから帰ってくると目がトロンとして様子が変で、その夜は果てしもなく体を求めてきて…

 そんな里奈と子供が出来たからと言って一緒になるとか絶対ありえない。占いを知らない俺でも数年後の俺らの生活が明瞭に想起される。俺は大学中退、アパートに黒のワンボックスカー、子供は三歳から茶髪… 二人目の子供の父親は一体誰なのか…

 憂鬱だ。ああ、憂鬱だ。どうしたらいいのだろう。どうすればいいのだろう…

 菱形の道路標識が目に入った時にはもう遅かった。横断歩道をスマホを見ながら横断している男子学生をギリギリでかわすのが精一杯だった。目の前に電信柱が迫ってくるー

 よく走馬灯の様に今までの人生が、なんて話があるがそれは嘘だ。ゆっくりと迫る電信柱をただ受け入れるだけだ。体は、腕は言うことをきかず、その電信柱に巻かれている広告がやけに鮮明に迫ってくる。
 
 死にはしないだろう、エアバッグも作動するはずだ。あの学生を跳ねなくてよかった。ただ歩きスマホだけは注意したかったな…

 氷が割れる様な音が聞こえフロントガラスが蜂の巣の様になると同時に、物凄い衝撃が俺を前方に追いやる。ハンドルが胸に食い込む。フロントガラスに前頭部が叩きつけられる。おい親父、この車エアバッグ………
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