第8章 第4話

文字数 1,060文字

 結局、水月があの時駿太に何を言ったのかは聞かなかったし水月も何も言わなかった。その三日後に栗栖さんの予見通り、駿太がシレッと日本史のわからないところを俺にラインで聞いてきた時、枕を死ぬ程殴りつけてやった。

 それから通話で二時間ほどグダグダとどーでもいい事を話し、その終わり際に、
「あんさー、こないだはゴメンなー、みんなの前でー」
 と駿太が呟く。

「気にしてねえ… のは嘘。ちょっと凹んだ。」
「悪い悪いー マジ謝罪っす。」
「オマエにどんだけ嫌われてもいい。だから、頼むからマスクと…」
「手洗い。な。わかってるって。ミヅキちゃんにあんだけ叱られたしー」

 叱ったのかアイツ…
「迫力あるわ、あの子… 涙ボロボロ溢しながら、『どうして駿太くんを思うケイの気持ちがわからないの!』って。ちょっと変わってるけど、あの子、サイコーだなー やっぱケイには勿体ねー、今からでも俺にワンチャン…」
「ねーよ。」
「だよなー」

「… って、駿太が言ってたぞ。狙われてるぞお前。」
「何喜んでいるのよ!」
「自分の彼女がモテるのって、ゾクゾクするわー」
「… あなた、変態?」
「だったらどーする?」
「兄に相談―」
「うっそー。嘘、嘘。な訳ねーだろ。な。」
 二人で吹き出す。

 二人きりでの勉強も一週間が経つ。世の中は二年前とほぼ同じ流れとなり、水月の父親も俺の親父も在宅テレワークが多くなる。いや、親父は二年前、毎日会社に行っていた気がする…

「ホントは出て来いって言われてんだけどな。でも『受験生抱えてますので』って断ってんだよ。感謝しろよ、感謝。で、今日は美月ちゃんは?」
「おい。オヤジ。俺じゃなく、水月目的じゃねーか!」
「英語くらいなら教えてやるぞ。」
「マジで言ってんなら、受験生舐めすぎ!」
「うるせー あー、美月ちゃんに会いたいよおー」
「… これから来るけど。」
「それ、早く、言え!」

 慌てて支度して家を出ていく親父に溜息をつきながら、カレンダーを眺める。共通テストは一昨日終わった。駿太は二年前共通テストは楽々突破し、二次試験の二日前にインフルエンザに罹患したのだ。

 あと一月後。それは俺たちの入試日程とも重なる。駿太はあれから自宅で狂ったように勉強しているようだ。毎日頻繁に主に文系科目の問い合わせがあった。共通テストが終わるとその頻度は更に増していき、今では一日の三割くらいあいつと話している気がする。

 時には水月も加わり三人でチャット状態で勉強をする。今日も恐らくそうなるだろう。社会の混乱を他所に、俺たちのモチベーションは確実に上がってきている。
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