第3章 第7話

文字数 1,275文字

「相当天然モノだなこれ… こりゃ友達出来ねーわ。」
「だなだなー 見た目はいいんだけど、これはキッツいわー」
「駿太、言い過ぎ。でもケイ、よく彼女と、その、コミュニケーション? とれるな…」
「でも外でも内でもって、ウケる! ちょっと可愛い?」
「アレかね、本読みすぎてイっちゃってんのかね、頭…」
「円佳! 言い過ぎ。いや、興味深いわー、ケイとの関係。」
「それなっ うわ、俺、話三分も持たねーわ。」
「どんな本読むんだろう、ねえ星野さん?」

 俺の隣に座った水月はメニューに集中していて菊池穂乃果の問いかけに気付かない。四人は俺を可哀想な人を見る表情で見つめてくる。

 彼女の肩を軽く叩く。ハッとして振り返る彼女に、
「菊池が、お前どんな本読むか知りたいって。」
 彼女は菊池穂乃果に、
「ごめんなさい、ちょっと待って。選んじゃうから。」

 駿太と吉村円佳はドン引きし、洋輔と菊池穂乃果は暖かく微笑む。俺はと言えば、先程から脇汗と手汗が全く止まらない状態なのである…

 俺らも選ぶか、という事になり、メニューを回しながらそれぞれが店員に注文し終わると、場は微妙な空気に包まれる。当の水月はキョロキョロと皆の表情を伺い、しばらくして不意に、

「あの、自己紹介した方がいいかしら?」
「そ、そうだな。そうするか。じゃ、お前から。」
「星野美月です。南中出身です。趣味は読書です。」
「へー、南中なんだ、そんなら山形紗英とか新見かずみとか知らない?」
「知らない」

 ゆっくりと首を振る。それも堂々と。うちのクラスでも屈指のコミュ力を誇る吉村円佳が降参とばかりにソファーに背中を投げ出してしまう。だが水月の制服姿を呆れるように見ていた彼女が、
「ちょ、ちょっとアンタ、値札? タグ付いてるよ、襟の後ろ!」
「あら。ホントだ。急いでたから見落としたみたい。ありがとう、家帰ったら取らなきゃ」
「今でしょ!」
 すかさず店員を呼びハサミを借りてそのタグを切り取りながら、
「なんでこんなの付けてんのよ? 恥ずくないの?」
「その… 食事会だって言うから… 新しいのを下ろしたのだけど。あの、ありがとね、吉川さん…」
「ヨシムラ! うわ… ホンモノの天然モノだ… ってか、全然イメージとチゲくね?」

 その後、それぞれが彼女に自己紹介する。彼女はおもむろにスマホを取り出し、スケジュールアプリに皆の名前を打ち込み始める。誰も聞かなかったが、彼女が自分から、
「私、人の名前覚えられなくて… 覚える必要も無かったし」
 皆、クラスや部活では相当のコミュニケーションスキルを駆使している連中なのだが、彼女の言動にただ呆然とするだけである。まるで動物園でペンギンを眺める如くの有様だ。

「あとは、早乙女、ケイ… あなた、ケイくんなのね。初めて知ったわ。」
「……お、おう。」
「で、どんな漢字なの?」
「あのさ…」
「え?」
「今まで… 知りたいと… 思わなかったの?」
「だって。あなたは早乙女君じゃない。あなただって私の名前、知っているの?」
「みづき。美しい月」
「え… なんで? どうして知っているの? キモ」

 全員、再度ズッコケる。
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