第1章 第2話

文字数 995文字

 里奈は俺が一年の時、つまり去年の生徒だった。塾に何しに来ているの、と言う感じの勉強意欲無し、学力無し、勉強に関する向上心まるで無し、のビッチ系生徒だった。初めての塾講師としての生徒だったので、こんな子でも俺が何とかしてやろう、と空回りしていたのが今でも恥ずかしい。

 そのクラスは塾の中でも最下層に位置し、まあ新人講師が受け持つのが当然なのだろう、因みに二年経った今は上から三〜五番目のクラスの日本史を受け持っている、大学受験する子は皆無、高校を何とか卒業するための補修のような授業をするクラスだった。
 当然男子生徒はヤンチャ系、女生徒はビッチ系ばかり。俺の高校は進学校だったから接触した事のない人種であり、当初は相当戸惑った。授業を聞いている生徒なぞほぼおらず、小テストはゼロ点続発。

 このままではクラス崩壊、バイトクビ、それを阻止すべく授業内容を独断と偏見で勝手に修正し、大手の塾ではないので決められたカリキュラムとかの押し付けはなくその点は講師の自由が効くのが良い、その後の授業を全て『アニメ』『漫画』『ゲーム』を絡ませて行った。

『信長のシェフ』を語り始めた途端、女子生徒が食いついて来る。『信長の野望』を実際にやって見せると男子生徒が熱く語り始める。
『銀魂』の史実性を討論させると全生徒が発言する。『鬼滅の刃』についてレポートを求めると日本刀の歴史を調べて来る生徒が続出する。

 気がつくと、俺のクラスの出席率は彼らの卒業間近にはほぼ100%となっていた。

 そんな生徒の中でも里奈は俺を男と認識し、高校卒業後もしつこく付きまとってきていた。俺は大学ではフットサルサークルにしか入っておらず、女子の友人は専ら高校時代の同級生や後輩、同じ塾の講師が多かった。なるべく教え子には手を出さないようにしていたのだが、里奈は巧みに俺の防御網を掻い潜り、今では週二くらいで俺の下宿に泊まっている。

 俺には特定の彼女は、居ない。また特別に想いを寄せている女子も居ない。ちょっといいな、と思う子が出てきても、俺はどうしてもアイツと見比べてしまうのだ。

 アイツ…… 高校時代の同級生に星野美月という女子がいた。一年と三年が同じクラスであり、部活には所属せずいつも一人で本を読んでいた。
 俺はサッカー部に所属し、二年の秋の大会が終わるまでサッカーに邁進していた。それ故俺と彼女の接点は三年の時が主であった。
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