第3章 第3話

文字数 1,657文字

 翌日から、星野美月へのアタックが物凄いことになってきた(と本人が言っていた)。側から見ても、休み時間にドアから彼女をチェックする他のクラスの男が確実に増えている。
 去年告って惨敗した吉田がリベンジを宣言するや否や、我も我もとコクリ宣言を表明し、実際に行動し始める。

 その週末までに、実に七人!の哀れな戦士達が川越の空に散っていった(と本人が供述している)
 どうしてこの時期に、と不思議に思うのだが自分自身、彼女に惹きつけられたのはこの最近なので、迫り来る受験への不安を忘れたいが為に女に走るのでは、なんて推測は自分を貶すことになってしまう。ので、いやこれは純粋に星野美月の魅力が増し、男がそれに惑わされたのだ、という事にしておく。

 それにしてもこの事は俺への影響も実は大きく、と言うのはこの学校の都市伝説『星野美月のラインIDを知る男子はいない』が実は伝説でも何でもなく、女子ですら交換した者はいない、という事実が週末までに表面化し、それに輪をかけてある女子が、
「早乙女くん、星野さんのライン知ってるよね?」
「知ってるよ。」
 この話が全校生徒に伝わり、その結果一年坊主から同じクラスの奴までが、
「お願いします! 星野さんのID教えてくださいっ」
 が俺に殺到中なのである。

 一番困ったのは、俺の中の良い仲間が『星野病』に取り憑かれてしまった事だ。それも同じサッカー部の洋輔と駿太から別々に
「星野さんって良いよな… ケイ、お前ホントに付き合ってないの?」
「付き合っては、いないけど…」
「マジ? じゃ、今度紹介してくれよ!」

 これには本当に困ってしまう。同じサッカー部の吉田の、
「ケイくん、お願い! 俺にちゃんすをもう一度くだs」
「ダメ!」
「そんな… 頼むよおー」
 これは無視して良い。二年前も確かこんな感じだったから。しかし、洋輔と駿太は二年前は星野美月と接点はなかったはずだ。それが今……

 こんな事になるのなら、星野美月に俺の気持ちを伝えて付き合い始めた方が良い。絶対そうに決まっている。星野美月が受け入れてくれるかは自信ないが……
 しかし、俺は彼女に気持ちを伝えるのは少なくともクリスマス以降と決めている。
 何故なら。俺は未来から来た人間だ。既に二人で小旅行なぞ行ってしまっているが、これ以上過去を変えていいものなのか? それが不安なのだ。

 もし俺たちがこの時期、即ち夏の終わり、秋の初めから付き合い始めてしまったら、未来に対して取り返しのつかない事になるかも知れない。このままいけば、恐らくクリスマスに彼女が俺にプレゼントと共に思いを伝えてくるだろう。それに応えるのなら未来への変更は最小限ですむと考えている。

 彼女はモチベーションを落とさず、晴れて志望校に合格。それ以外に大きな変更はないであろう。上手くいけば、俺と里奈との関わりは無くなり、二十歳にして父親になることもなくなるかも知れない。これは俺にとっての未来の改善、でありそれに対しての不安はなく寧ろそうあることを願っている。

 だが今から付き合い始めてしまったら… 二年前にはなかったイベントが多数発生し、それにより周りの仲間たちも未来が全く変わってしまうかも知れない。

 未来を変えたくない。未来を改善したい。この二律背反した考えに俺は頭を悩ませている。今の俺にできる事は、先週の様な二年前にはなかったイベント、星野美月との旅行といった事はなるべく避けよう、という事だと思う。
 それを踏まえて、これから起きる洋輔のバイクの事故と駿太のインフルエンザは何とか防ぎたい。これは未来の改変ではなく、改善なのだから。

 然し乍ら、洋輔と駿太の星野美月への想いはどうなのだろう、これはこの先どんな影響を彼らの未来に与えるのだろうか。
 そればかりは神のみぞ知ること、そう考えねば俺はやっていけない。それこそ落ち葉一つ踏まないでビクビクして生きていかねばならなくなってしまう。
 俺は俺らしく。大いなる未来へ。それでいいと思う。

 きっといつかは元の世界に、戻るのだから…
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