第1章 第7話

文字数 1,309文字

「…この様に、幕末の日本を取り巻く世界情勢をしっかりと把握してないと、その後の明治政府の方針指針が理解出来ないから、並行して世界史も頭に入れておく様に。黒船が来た1853年頃のアメリカの世界的な立ち位置はどうだったか? そういったことを知らないと只の暗記地獄に陥るからな! それではこれで終わります。」

 予備校だ… 俺があの夏、星野美月と通い詰めた予備校に居る!

 慌てて周りを見回す。間違いない。あの夏の記憶通りだ。隣の席のニキビ面の川越第一女子高の女子。後ろはいつも寝ぐせの東川越高の男子。そして、窓際の最前列の、星野美月!

 丁度授業が終わり、俺は荷物 ―わ、懐かしいぞこのノート。まだ実家に置いてあるはず− をカバンに −これ、秋に破れて捨てたんだよな− 放り込んで、星野美月の元に駆け寄る。

「ほ、星野っ!」
「えっ なにっ どうしたの、早乙女くん?」

 これは… 夢なのか…

 あの頃と変わらない星野美月がいる。あれから時折夢にまで出てきた彼女が目の前で首を傾げている…

 俺は令和三年の夏、交通事故に遭った、自損事故で電柱に激突した筈だ。なのに、今…

「今年、令和元年、なのか?」
「…… そうだけど。どうしたの?」
「いや… その… 星野、元気か?」
「はあ?」

 思いっきり怪訝な顔をされてしまう。然し乍ら俺は全く受け入れられない。俺は確か事故った筈なのに、何故…

 ああ… これはきっと夢、なんだ。多分手術中かICUで見ている夢なのだ。
 きっとそうだ。間違いない。間も無く俺は目覚めるだろう…

「ねえ、歴史の小テストどうだった?」
「……え? 小テスト?」
「さっき返ってきたじゃん。……ちょっと…… 早乙女くん大丈夫?」
 さらに怪訝度を増す星野美月。
「ああ、それなら…」

 再来年に廃棄予定のカバンを探ると… 言われた通り、小テストが出てくる。は…? なんだこの点数…

「…江戸時代最後の天皇は孝明天皇に決まってんだろうが… 何が光明天皇だよ… 北朝じゃねーかよ… それに浦賀に停泊した黒船はサスケハナ、ミシシッピ、あとはサラトガとプリマスに決まってんだろうが。何故に空白… アホかこいつ… って…」
「……早乙女くん?」

「いやー、俺ってホント歴史弱かったわー」
「…かった?」
 
 怪訝を通り越しスマホで通報しそうな表情に…
「え… あ、いや、さ。歴史って、興味があれば面白いもんじゃん。」
 急に星野美月の目が輝き出す。俺の方に身を乗り出し、

「そう、そうだよ! そうなんだよ早乙女くん! 早乙女くんは歴史小説とか読まないの?」

 あれ… これって… あの時の俺と彼女との会話… 俺が歴史好きになったあの日の…

「歴史はね、興味を持つ事。これに限るわ。早乙女くんは時代小説とか読まないの?」

 うわー デジャブ感が半端ない… 確か、俺はこう言ったんだよな…

「俺、本は全然。サッカーばっかしてたから読む暇なくってな。代わりにマンガとかアニメ、かな。」
「それならば、歴史物の漫画を読んだら? 私漫画は読まないからよくわからないけど。」

 そうだそうだ。確かそんな展開だった! で、確か俺は、

「ふーん。後でブックオフ付き合ってくんね?」
「ええいいわ!」
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