第8章 第1話

文字数 993文字

 星野家では毎年元旦に家族で初詣に行くそうで、翌二日、俺と水月は二人で川越氷川神社に初詣に行く。

「知ってたケイくん。この神社は『縁結び』と『夫婦円満』の神社で有名なのよ。」
「少なくとも『学業成就』の神社ではないとは思っていたけど。どうしてそれが有名なんだ?」
「二組の夫婦神が鎮座しているのよ。だからじゃない?」
「そう言えば夏に縁結び風鈴やってるよな?」
「そうそれ。もう私たちに必要ないけれど。」
「ハハハ! それなっ」
「…いま、『重っ』って、思ったでしょ?」
「へ… いや。全然。」
「夫婦の話とかして… 『ウザ』って思ったよね?」
「夫婦か… って、どんだけ先の話だよ…」
「少なくとも二十代で子供が欲しいわ。」

 なんの照れもなく言い放つ水月に確かにギョッとしてしまう。
「両親が元気なうちに… 孫の顔を見せてあげたいわ。」
「そ、その前にー受験突破! 同じ大学行くんだろっ?」
「え、ええ、そうねー 先ずは大学受験、よね…」

 そして四月からの大学生活。俺は一人暮らしを決めている。そのことを話すと、
「… そ、そうなんだ…」
「お、おう。だから… その… もしアレなら…」
「アレなら?」
「だ、だから、お前さえ… アレなら…」
「私さえ、アレって?」
さっき引いたおみくじをギュッと握り締めながら、
「一緒に、暮らすか?」
「それはないわ。」
「… へ…?」
「だって学部が違うじゃない。一緒のクラスはありえないわ。」

 ……ここで、親父ギャグかよ…

「同棲、する?」

 急に立ち止まり木像と化してしまう水月。なんだよ、急に夫婦とか子供とか言い出すから。でも急にそんなこと言われても、な……

「家族に、相談してみる…」
「え… あ、うん。」
「兄に。」
「それはやめてね。」
「そうね。やめておくわ。」
「そうしてね。」
「フフ。同棲生活。フフフ。」
「なんだよ?」
「でもあなた、サッカー部に入るんじゃないの? そうしたら寮に入らなくては?」
「あの大学はグランドが埼玉にあるから自宅生も多いって。地方から来た奴は入寮するらしいけど。」
「そうなの。それならー大学生になったら、私はバイト探さなくちゃ。それからー」
「そーゆーのも、合格発表終わってから。一緒に考えようぜ。」
「ケイくん」

 水月を振り返り見る。

「だいすき」

 神聖な神社の境内という事を忘れ、強く抱きしめる。すかさず水月のスマホが鳴動する… もういいって、わかってるって、義兄さん…
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