第3章 第5話

文字数 948文字

 これまでのクールボッチキャラの星野美月、いやこれからは水月と呼ぼう、の周りが明らかに変わっていく。休み時間ごとに周りに女子が数名囲み、意外に楽しそうに話し込んでいる姿が日常となってきている。

 本人は貴重な読書の時間が減って困っている、と言うが彼女の表情、立ち振る舞いに明らかに変化が出てきており、それは本人にとって良い方向なのだと思う。

「結構本読んでいるのよ、みんな。」
 予備校の帰りのいつものガストでグラタンを突きながら水月が語る。
「ラノベ、って言うの。早乙女君は知っているわよね? いくつか紹介されて読んでみたけど、中々しっかりしていて面白かったわ。中でも物語シリーズの西尾維新先生は素晴らしかったわ、日本の怪奇の歴史に造詣がないと理解しきれない内容ながら、そうでない人にも十分堪能出来るの。要は学識のある人もない人も等しく楽しめる、画期的なお話なのよ!」

 興奮状態の水月に圧倒されつつ、
「…… そうか…… 確かにラノベはとっつき易いし面白い。それで? お前は逆に何紹介したんだよ?」
「ヘノベ、よ。」

「おいまさかそれヘビーノベルすなわち夏目漱石森鴎外徳富蘆花柳田國男などの重たーい作品群を言っているのか?」
「それを読んだらその後の人生変わっちゃうぐらいの重たーい小説たちよ。」
「…… それより。お前のその痛い親父ギャグ、まさかかましてないだろうーな?」
「それぐらいの空気は読めるわ。言っていい人と悪い人。どう、私のコミュ力、あなたから見て相当上がってきたんじゃないかしら。」
「是非これからもその自覚を大切に生きてくれ。ところで今度、俺のサッカー部の奴らと飯でも食いに行かない?」
「どういうこと?」
「お前の事紹介しろってうるさいんだわ。但馬洋輔と駿河駿太って知らないか?」
「ええ知らないわ。でも早乙女くんの友達なら構わないよ」

 そして週末、水月に友達二人連れてこられないか、と聞くとそれは無理、と言われたのでクラスの吉村円佳と菊池穂乃果に参戦してもらい、六人で夕飯を囲む事となる、いつものガストで。

 これは歴史の改竄ではないだろうか? そんな不安も少しはあった。しかしそれよりも俺たちにとって大切な何かがある気がした。これは歴史の改善だ、きっと西尾先生も頷くであろう。そう自分に言い聞かせる。
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