第8章 第13話

文字数 2,117文字

 駿太の再設定された受験日はあっという間にやってくる。その間俺たちは文明の利器―スマホを駆使し、駿太が懸念していた分野の補強に全力を尽くしてきた。結果、駿太曰くー
「戦う準備は整った。」

 スマホの画面には全く健康体そのものの駿太が太々しく笑っている。陽性反応であったが、発症することはなく全くの健康体だったのだ。

 特別試験当日。俺たちは(暇なので)駿太の試験会場の外で試験終了を待っている。
「ねえ。この後みんなで又ドームシティ行かない?」
 急に水月が言い出す。確かにここからだと歩いて十五分と言ったところか。
「えマジ? やってっかなあ?」
「ちょっと待って、調べる… あ残念。アトラクションは臨時休業…」
「あれ。屋内はやってんじゃね?」
「あ、本当だ! アハ、またみづきちゃんのアレが観れる!」
「洋輔くん。何か問題あるかな? 今度はちゃんとやれるわ。うん。もし出禁になっていなければ……」

 一同大爆笑だ。余りにウケすぎて、義肢をつけ始めて一週間の陽輔はバランスを崩し、それをすかさず菊池穂乃果が支える。その姿を皆で冷やかし二人は真っ赤になる。

 試験終了の時刻が過ぎても駿太は出てこない。三十分過ぎたが、まだ。
「遅いね…」
「何してんだろ。スマホ繋がるかな?」
「ダメ。まだ電源入ってないー」

 それから三十分後。ようやく駿太が出てくる。あれ、誰かと一緒に?
「誰… だろ…」
「駿太と同じ、コロナ陽性だったんじゃね?」
 その子―小柄な女子―は駿太と何事か話しながらこちらに向かってくる。
「へえー中々可愛い子じゃんー」
「やるじゃん駿太!」

 長い黒髪、丸顔、パッチリした目… 確かに駿太のストライクど真ん中かも…
「お待たせ! ワリーワリー、ちょっと、この子と試験問題について色々―」
「……」

 どうやら人見知りな子らしい。
「駿太―、この後さ、打上げっぽくさ、みんなでドームシティ行こうかって言ってんだけどー」
「マジマジ? 超行くっしょー、っシャー! 受験終わりっ ウエーーイ!」
 一人大はしゃぎの駿太の横でぽかんとしている彼女にオカン吉村円佳が、
「あのさ、よかったらウチらと一緒に行かない? あ、ウチらこいつの同級生なんだけどー」
「……しょ……なん……で…」
「「「は?」」」
「あ、あ、あ……あた……しょ…」
「「「……」」」

『外国人、なのかな?』
『いや。極度のコミュ障じゃね?』
『それとも霊感少女?』
『そんな…偏見で人を見てはいけないわ…』
『駿太とさっきフツーに話してたよね…』
『どうする? 嫌がってる感じでもないし…』
「「「「「おい、駿太」」」」」
「へ? フツーに話してたけどー 聞いてみるわー」

 駿太が彼女の元へ行き話しかけると確かにフツーに会話している。
「お邪魔じゃなければ是非ってさ。行こーぜ!」
「「「「「お、おう」」」」」

 コミュ力偏差値の高い吉村円佳、菊池穂乃果が話しかけるも、やはりコミュニケーションは取れず。洋輔が話しかけると真っ赤になって地蔵化してしまった。
「任せておいて。私も経験あるからーこういう事―」
 決然と水月が彼女に近付き話し始める。だが元々限りなくコミュ障に近い水月と意思疎通が叶うわけもなく、項垂れて水月は俺の横に戻って来る。

 然しながら、俺たちはこの半年間、様々な経験を共有してきた。彼女程度のコミュ障なら全く問題なく対応出来る。俺たちならば。
 義肢にまだ慣れない洋輔を見る。先日看護学校に無事合格した吉村円佳を見る。先程特別試験を終えた駿太を見る。そして横を歩く水月を見る。
 自然と笑みが溢れ、俺は彼女と話すべく歩速を緩める。

 件のバッティングセンターは幸か不幸かスタッフが替わっていた様で、俺たちはすんなりと打席を確保できた。周りには人数もほとんどなく、俺たちのはしゃぎっぷりが場内に木霊している。

 彼女は道浦華。都内在住で、女子校で最も偏差値の高い高校。同居する祖父母があの豪華客船に乗っていた為今日を迎えたそうだ。

「へーー。流石ケイ! よく聞き出したじゃん!」
「なぜ笑う…」
「そっかー、ハナちゃんね。ハナちゃーん、これやったことあるー? えー、じゃあやってみー 超スッキリするしー」

 オカンが強引に光浦さんにバットを握らせ打席に送り出す。洋輔が下を向いて笑いを堪えているー
「オマエ、なんか期待してんだろ…」
「うん、ちょっと。ま、みづきちゃんを超えることはないだろうけー あ、危ない!」
 バットにボールが当たる音の直後に鈍い打撃音が聞こえ、慌てて振り返る。
「ちょ、ちょっとアンタ! だ、大丈夫!?」

 皆が呆然と打席の道浦さんを眺めている。たまたま振ったバットにボールが当たり、そのボールが道浦さんの顔面にヒットしたらしい。

 だが… 痛がるそぶりは全く見せず、再び打席に入り奇妙なポーズで次の投球に構えた。鼻からポタポタと鼻血を垂らしながらー

 洋輔はまたまたバランスを崩しながらしゃがみ込む。菊池穂乃果がすかさず支える。
「超えたわ… みづきちゃん超えだよ… は、腹痛えーー」

 以後、道浦華こと『ハナチ』又は『ハナちやん』が四月からの俺たちの集まりに欠かせないメンバーとなる事は二年先を知る流石の俺でも知りようがなかった…
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