第2章 第4話

文字数 778文字

 暑い。クソ暑い。
 
朝から積乱雲が湧いている。風も吹いておらず、バス停で立っているだけでクラクラしてきている。

 天気予報では鎌倉地方はにわか雨の可能性はあるものの晴天。予想最高気温三十八度! この全くの寝不足の俺が一日耐えられるだろうか。もっと早くベッドに入れば良かった、そう反省するもきっと同じことであったろう。
 土曜日のバスはそれ程混んでおらず、後部の座席に身を沈める。バスが発車し窓の景色が動き出す。見慣れた風景なのだがいつもより輝いて見え目と脳に眩しい。そして胸が苦しい。

 ジーンとした頭を解すべくこめかみを揉んでみる。星野美月とのデート。期待と不安でさっき食べた朝食が喉にせり上がってくる。

 俺、実際は二十歳の俺。付き合った彼女は七、八人。遊びも入れれば十人以上の経験を持つ俺。そんな俺がデート前日ほぼ一睡も出来ず、不安に慄いている。冷房が効いているバスの中なのに手汗が止まらない。

 こんな事は人生で初めてだ。こんな姿の俺を星野美月はどう思うだろうか。そう考えると不安が増幅されバスを降りたくなる。
 そんな思いと裏腹にバスは川越駅に到着する。
 気持ちと身体が正反対の動きをしている。集合時間にはまだ余裕があるのに、脚が止まらない。汗が吹き出る。それでも脚が止まらない。まだ彼女がいるはずないのに……

 星野美月が、当然のようにスタバの前に立っている。

 白のワンピースが眩しい。細い脚と歩き易そうなスニーカーがよく似合っている。唇にルージュは初めて見た。軽く施された化粧が俺の心を揺り動かす。やがて俺の脳が急に動き始める、さっきまではバッグっていたのに……

「あれ。早乙女くん、早いね!」
「星野もーー さては子供の遠足前みたく、夜寝れなかったんだろ?」
「えっ…… ま、まさか… よく寝ましたけど何か?」

 ギョッとした顔が可愛い。星野美月よ、お前もか……
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