第1章 第8話
文字数 1,374文字
予備校の外に出ると凄まじい熱気だ。あの夏は記録的な猛暑だったよな確か。館内がよく冷房されていた為気にしなかったのだが、この熱気が夢の中の感覚とは到底思えない。瞬く間に汗が吹き出す。額も首筋も…
「すごい汗だよ、はいこれ。」
星野美月がハンドタオルを差し出す。あれ…こんな事あったっけか?
「あ、サンキュ。洗って返すわ。」
夢の中だけに大胆に堂々と受け取り汗を拭く。どうせもうすぐ目が醒めるのだから。そのハンドタオルはすごくいい匂いがする。暑さとは別の脇汗が吹き出すのを感じる。
「星野さ、普段どんな本読んでんの?」
「え……」
突如硬直する星野美月。なに? なんかマズイこと言ったか?
「何だよ?」
「いや… そんなこと早乙女くんに聞かれたの初めてだから…」
「そんな事ないだ…」
ちょっと待て。俺、あの頃星野美月に私生活の事聞いたことあったか? 勉強以外の事を話す様になったのはお盆以降ではなかったか? お盆休みが終わった頃迄、俺は星野美月に対して単なる勉強仲間としての認識しか持たなかった気がする。いや、それでも愛読書くらいは聞いていた筈…
「私、最近は時代小説にハマってるの。」
伺う様な表情で目を細めながら星野美月は呟く。
「マジで? 例えば?」
「佐伯泰英の『居眠り磐音』シリーズ、かな。」
「あれ、な。あの続編の『空也』シリーズも最高面白いよな!」
星野美月が急に立ち止まる。そして俺を真正面から睨みつける。一瞬時が止まる。
「ねえ、どういうつもりなの!」
突如豹変した彼女に頭が真っ白になる。
「はあ? 何が?」
「早乙女くん、ついさっき全然本読まないって言ったじゃない、漫画とかアニメばっかりでって!」
「あっ」
俺は大学入学後、それまでの人生を反省するが如く読書に耽っている。勿論いくつかのマンガ、アニメは続行中だ。
「ずっとサッカーばかりしていたから本なんて読む暇なかったって!」
「んー、それはまあ…」
見たことのない険しい表情で、深く重く呟く。
「嘘、ついたんだね、私に?」
いやいや、ちょっと待ってくれよ、何だよこの展開…
「そんな… そうじゃなくって…」
「スポーツ万能。成績優秀。女子から大人気。」
「いや、だから…」
「私が本しか読まない女だから簡単に落とせると思ってるの? 全然読書しないフリして私に油断させて近付いてきたの?」
うわ… 星野ってこんなキャラだったの… 怖え、マジ怖え……
「ちょ、ちょっと待てよ星野!」
「私、嘘つく人、ムリだから。」
クルリと踵を返し星野美月が俺から離れて行く。
これ、マジか? 夢にしては酷い夢じゃないか、久し振りに星野美月に会えたというのに…
ま、そのうち醒めるだろう。この夢からも。
帰宅する。全てがあの頃のままである。お袋も、偉そうに仕事の話をする親父もあの頃のままだ。アンタ、ちゃんと車の車検通してくれよ…
全てがあの頃のまま、俺はベッドに入り目を瞑る。このまま寝て朝起きた時には病院のベッドなのだろう。まさか、死にはしてないだろうな… いや、ワンチャンそれも有りなのか? 今見ている夢が所謂死ぬ直前の走馬灯ってヤツなのか? それにしては全てがリアルだ。リアル過ぎる。まあそれも朝になれば…
翌朝。あの頃と何一つ変わらない、普通の朝を迎える。洗濯機の中には昨日出しておいた星野から借りたハンドタオルが入っている。
「すごい汗だよ、はいこれ。」
星野美月がハンドタオルを差し出す。あれ…こんな事あったっけか?
「あ、サンキュ。洗って返すわ。」
夢の中だけに大胆に堂々と受け取り汗を拭く。どうせもうすぐ目が醒めるのだから。そのハンドタオルはすごくいい匂いがする。暑さとは別の脇汗が吹き出すのを感じる。
「星野さ、普段どんな本読んでんの?」
「え……」
突如硬直する星野美月。なに? なんかマズイこと言ったか?
「何だよ?」
「いや… そんなこと早乙女くんに聞かれたの初めてだから…」
「そんな事ないだ…」
ちょっと待て。俺、あの頃星野美月に私生活の事聞いたことあったか? 勉強以外の事を話す様になったのはお盆以降ではなかったか? お盆休みが終わった頃迄、俺は星野美月に対して単なる勉強仲間としての認識しか持たなかった気がする。いや、それでも愛読書くらいは聞いていた筈…
「私、最近は時代小説にハマってるの。」
伺う様な表情で目を細めながら星野美月は呟く。
「マジで? 例えば?」
「佐伯泰英の『居眠り磐音』シリーズ、かな。」
「あれ、な。あの続編の『空也』シリーズも最高面白いよな!」
星野美月が急に立ち止まる。そして俺を真正面から睨みつける。一瞬時が止まる。
「ねえ、どういうつもりなの!」
突如豹変した彼女に頭が真っ白になる。
「はあ? 何が?」
「早乙女くん、ついさっき全然本読まないって言ったじゃない、漫画とかアニメばっかりでって!」
「あっ」
俺は大学入学後、それまでの人生を反省するが如く読書に耽っている。勿論いくつかのマンガ、アニメは続行中だ。
「ずっとサッカーばかりしていたから本なんて読む暇なかったって!」
「んー、それはまあ…」
見たことのない険しい表情で、深く重く呟く。
「嘘、ついたんだね、私に?」
いやいや、ちょっと待ってくれよ、何だよこの展開…
「そんな… そうじゃなくって…」
「スポーツ万能。成績優秀。女子から大人気。」
「いや、だから…」
「私が本しか読まない女だから簡単に落とせると思ってるの? 全然読書しないフリして私に油断させて近付いてきたの?」
うわ… 星野ってこんなキャラだったの… 怖え、マジ怖え……
「ちょ、ちょっと待てよ星野!」
「私、嘘つく人、ムリだから。」
クルリと踵を返し星野美月が俺から離れて行く。
これ、マジか? 夢にしては酷い夢じゃないか、久し振りに星野美月に会えたというのに…
ま、そのうち醒めるだろう。この夢からも。
帰宅する。全てがあの頃のままである。お袋も、偉そうに仕事の話をする親父もあの頃のままだ。アンタ、ちゃんと車の車検通してくれよ…
全てがあの頃のまま、俺はベッドに入り目を瞑る。このまま寝て朝起きた時には病院のベッドなのだろう。まさか、死にはしてないだろうな… いや、ワンチャンそれも有りなのか? 今見ている夢が所謂死ぬ直前の走馬灯ってヤツなのか? それにしては全てがリアルだ。リアル過ぎる。まあそれも朝になれば…
翌朝。あの頃と何一つ変わらない、普通の朝を迎える。洗濯機の中には昨日出しておいた星野から借りたハンドタオルが入っている。