第7章 第9話
文字数 1,273文字
親父とお袋と三人で買い出しなんて何年振りだろう。そもそも三人で車で出かけること自体、今年初かも知れない。あと一日なんだけど今年。
こんなに使わねえだろ、とブツブツ言いながら両手にトイレットペーパーとティッシュを抱える親父を宥めすかし、更にマスクを二パック購入するべくお袋と先へ進む。
「ねえケイちゃん。もっと買っておいてさー」
「はあ?」
「いざっていう時―メルカリで売りに出しちゃう? へへへー」
「頼むからーそれだけは、やめておこう…」
「えーー、なんかお小銭稼げそうじゃんっ あとは。何買っとけばいい?」
なんだかドラえもんを見つめるのび太のような視線で俺を伺うお袋。ま、それならそれで俺はいいけどさ…
「手洗いソープ。消毒用アルコール。生理用品。とかかな?」
「…ねえよ。もう上がっちゃったわよ…」
「???」
「!!!」
上がった、とは? 何だろう。今度水月に聞いてみよう。
久しぶりにー本当に何年振りだろうー買い出しの帰りに国道沿いのファミリーレストランに入る。小学生の頃までは毎週のように行っていた。週末のサッカーの試合の帰りに。
「そう言えば三人で年末の買い出しなんて… 随分久しぶりだよな。な、ケイ。」
「俺が物心ついてからは、初なんだが。」
「そうよー。いつも私一人でえっちらおっちらやってたんだからっ」
「いやー。なんか色々あったけどな、いい年を越せそうだな。」
「それな。ホントそう思うよ」
「お前もいよいよあと二ヶ月か。風邪とか、特にインフルエンザには気をつけろよ。」
「わかってるって。父さんも手洗いだけはちゃんと頼むよ。」
「ば、ばか言ってんじゃねえよ。『川越のラスカル』になんて偉そうなことを言うかな?」
「…ラスカル? 何それ?」
「さあ。もう行くわよー。帰ってからもうひと掃除しなくちゃ! ケイちゃんは勉強しなさいよ。」
「「はーい」」
こうして俺にとって激動の一年が終わろうとしている。明日のことはもはや何も予測できない。年明けて、二年前の様にコロナウイルスが世界を席巻するのだろうか。駿太はインフルエンザに罹患するのだろうか。そして水月は、俺は、志望校に合格できるのだろうか…
窓の外は大晦日の寒空だ。間もなく除夜の鐘の音が聞こえてくるだろう。二年前の除夜の鐘の音の記憶は全くない。それどころでなく勉強に没頭していたのだろう。
シャーペンを机の上に置く。窓を少し開ける。冷たい冷気が熱を帯びた頭を冷やしてくれる。スマホを開き、水月に年末年始の挨拶を入力する。
鐘の音が遠くに聞こえてきた。送信をタップすると同時に水月からの長文のラインが届く。それをベッドに寝転びながら何度も読み返す。
読んでいると怒涛のように新年の挨拶が届く。その中に里奈からの挨拶があった気がする…
今から始まるこの令和二年が、俺にとって、水月にとって、そして俺を取りまく全ての人にとって最高の年になりますようにー
スマホの電源を切り、部屋の電気を消す。目を閉じる。寝つきは良い方なのだが、今夜に限っていろいろな想いが脳裏を交差し、何度もキッチンの冷蔵庫を開くことになった…
こんなに使わねえだろ、とブツブツ言いながら両手にトイレットペーパーとティッシュを抱える親父を宥めすかし、更にマスクを二パック購入するべくお袋と先へ進む。
「ねえケイちゃん。もっと買っておいてさー」
「はあ?」
「いざっていう時―メルカリで売りに出しちゃう? へへへー」
「頼むからーそれだけは、やめておこう…」
「えーー、なんかお小銭稼げそうじゃんっ あとは。何買っとけばいい?」
なんだかドラえもんを見つめるのび太のような視線で俺を伺うお袋。ま、それならそれで俺はいいけどさ…
「手洗いソープ。消毒用アルコール。生理用品。とかかな?」
「…ねえよ。もう上がっちゃったわよ…」
「???」
「!!!」
上がった、とは? 何だろう。今度水月に聞いてみよう。
久しぶりにー本当に何年振りだろうー買い出しの帰りに国道沿いのファミリーレストランに入る。小学生の頃までは毎週のように行っていた。週末のサッカーの試合の帰りに。
「そう言えば三人で年末の買い出しなんて… 随分久しぶりだよな。な、ケイ。」
「俺が物心ついてからは、初なんだが。」
「そうよー。いつも私一人でえっちらおっちらやってたんだからっ」
「いやー。なんか色々あったけどな、いい年を越せそうだな。」
「それな。ホントそう思うよ」
「お前もいよいよあと二ヶ月か。風邪とか、特にインフルエンザには気をつけろよ。」
「わかってるって。父さんも手洗いだけはちゃんと頼むよ。」
「ば、ばか言ってんじゃねえよ。『川越のラスカル』になんて偉そうなことを言うかな?」
「…ラスカル? 何それ?」
「さあ。もう行くわよー。帰ってからもうひと掃除しなくちゃ! ケイちゃんは勉強しなさいよ。」
「「はーい」」
こうして俺にとって激動の一年が終わろうとしている。明日のことはもはや何も予測できない。年明けて、二年前の様にコロナウイルスが世界を席巻するのだろうか。駿太はインフルエンザに罹患するのだろうか。そして水月は、俺は、志望校に合格できるのだろうか…
窓の外は大晦日の寒空だ。間もなく除夜の鐘の音が聞こえてくるだろう。二年前の除夜の鐘の音の記憶は全くない。それどころでなく勉強に没頭していたのだろう。
シャーペンを机の上に置く。窓を少し開ける。冷たい冷気が熱を帯びた頭を冷やしてくれる。スマホを開き、水月に年末年始の挨拶を入力する。
鐘の音が遠くに聞こえてきた。送信をタップすると同時に水月からの長文のラインが届く。それをベッドに寝転びながら何度も読み返す。
読んでいると怒涛のように新年の挨拶が届く。その中に里奈からの挨拶があった気がする…
今から始まるこの令和二年が、俺にとって、水月にとって、そして俺を取りまく全ての人にとって最高の年になりますようにー
スマホの電源を切り、部屋の電気を消す。目を閉じる。寝つきは良い方なのだが、今夜に限っていろいろな想いが脳裏を交差し、何度もキッチンの冷蔵庫を開くことになった…