第3章 第10話

文字数 796文字

「ほんっと、申し訳ない! ゴメン!」
「いいよ。もう気にしてないよ。」
「いやいやいや。なんか調子に乗ってやなことばっか言ってたわ。サーセンっしたっ」

 本気で頭を勢いよく下げる吉村円佳に、
「結果、早乙女くんの気持ち知ることができたし。感謝だよ、吉川さん。」

 本気の両手で水月の側頭部を揺らしながら、
「ダメなのかー、刷り込まれたのかー、戻ってこれないのかーー」
 何故か歩道橋の上で大爆笑している俺たち。

「でも、好き合ってるのに、付き合わないってホントなの?」
 心底不思議そうに菊池穂乃果が首をかしげる。
「うん。だって私たち、『同志』だから。」
「同志って…‥」
「それに受験も控えているし。こんな時期に付き合ったりしたら、どっちもダメになるから。中途半端なお付き合いはしたくないしー」

 おおおお、と感嘆の声が川越の夜空に響く。
「ケイはそれでいいのか? ほっといたら、他の奴に持ってかれちまうぞ。例えば吉田とか。」
「ハハハ。いや、俺も付き合う時はガッツリ付き合いたいから。今はこうして勉強を通じて互いを高め合いたいわ。」
「やっぱ、お前変わったよ。夏前のお前と全然別人だよ。うん。マジいいよ、お前。」

 駿太が真剣に褒めてくれる。洋輔も深く頷いている。まあ、二年分年取っているからな。その分ぐらい、男としての余裕ができているのかもな。

「それよりさ、星野さんお腹空いたでしょ? みんなでこれからカフェでも行こうよ。」
「ケイくんもおなか空いたでしょ、みんなで行こうよ。ね、星野さん!」
「… あの、一つ、お願いが…」
「え、なになに?」
「下の、名前で呼んでもらえる、かな…」
「みづき!」
「あ、ありがと、え、えっと、ほのか?」
「ミヅキ!」
「ま、ま、まどか?」
「みづきちゃん?」
「ヨウスケ、くん?」
「ミヅキちゃーーン!」
「誰だっけ?」

 歩道橋から飛び降りようとする駿太を笑いながら後押し… ではなく、引き戻す俺らだった。
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