第十五話・もうひとりの同行者
文字数 2,059文字
マイクロバスは、そんな工場を幾つも通り過ぎ、工場地帯の中を突き進んでいく。この辺りは工場の関係者や運送会社の車以外は通らない。だが、マイクロバス自体はそんなに目立つ存在ではなかった。派遣社員の送迎でよく使われているからだ。
工場の建物群を通り越し、マイクロバスはついに突き当たりの柵に道を阻まれて止まった。高さ三メートルはある金網の上には有刺鉄線。小さな扉があるが、何重にも鍵が掛けられている。
「ここから先は歩いていきます。荷物を忘れずに降りて下さい」
一緒に降りた運転手が無線でどこかに連絡した後、懐から取り出した鍵束で金網の扉の鍵を一つずつ解錠していった。
ギイ、と軋んだ音を立てて扉が開く。
金網を抜けると、目の前には海が広がっていた。
「さあ、こちらからお乗りください」
「え、これに?」
さとるが不安げな声を上げた。しかし、真栄島が促すと素直に従った。マイクロバスの運転手は岸に待機し、見守っている。
細いタラップが岸壁と船を繋いでいる。打ち寄せる波に揺れる道を通り、全員が船へと乗り込んだ。機械油と鉄錆の匂いが充満する薄暗い船内は、外観から受ける印象より新しく見えた。
真っ先に目に入ったのは、内部の広い空間に積まれた自動車。軽自動車から普通自動車まで車種はバラバラだ。その数、七台。
「なに、ここ……」
「車……?」
ゆきえとさとるは眼前の光景に怖気付いた。
真栄島達の先導で車の間を縫って進むと、つなぎの作業着姿の青年が奥で待ち構えていた。彼は抱えていたバインダーを近くの車のボンネットに放り投げ、訪れた七人に向かってバッと両手を広げた。
「らっしゃーい! どーもどーも。あ、この船はねーわざとボロく見えるよーに外装に細工してあるだけだから。最新式とはいかないけど、それなりの性能あるから安心してねー」
細い目を更に細め、胡散臭い笑みを浮かべている。アジア系の顔立ちで、肌の色はやや浅黒い。頬から首、胸元まで目立つ場所にトライバル調の入れ墨が入っており、ひと目でカタギではないと分かる風貌をしていた。
確かに、外から見た船体は廃棄寸前にしか見えなかったが、内部の配管や壁はひとつも錆びていない。手入れが行き届いている。
「アリ君ありがとう。予定通り行けるかな」
「はいはーい、すぐ出港できるよー」
アリと呼ばれた青年は、ひらひらと手を振って奥へと引っ込んだ。しばらくして、エンジン音と共に船体が細かく振動し始めた。
人が休むための部屋はないようだ。車を積んでいる場所が一番広く、あとは操舵室や機関室しかないような船である。小型フェリーというよりは貨物船や離島の連絡船みたいなものだろう。
「あの、この船、どこへ行くんでしょうか」
「それも含めて説明しますね」
協力者四人と勧誘員三人は船内の片隅に作られた畳スペースに荷物を降ろし、円陣を組むように座った。中央には勧誘時に見せた衛星写真や地図が置かれている。写っているのは、本州の太平洋側に浮かぶ小島。
その地図を手に取り、真栄島が口を開いた。
「これからこの無人島に向かいます。ここには前に説明した『敵対国が持ち込んだ兵器』があります。これを破壊してもらいます」
改めて言われ、四人は首を傾げた。
「私達だけで、ですか。他には?」
「我々も一緒に行きますよ」
真栄島が両脇に座る
「いや、それでも七人しかいないじゃないですか。軍事施設を壊すなら、やっぱり警察……いや、自衛隊の方が」
「我が国が敵国の軍事施設を把握しているように、あちらも自衛隊基地や警察の施設と人員を全て把握しています。大きな動きを見せればすぐに戦争が始まる、今はそれくらい切羽詰まった状況なんです」
「そっ……そうなんですか……」
近隣の国々とは領土問題やら過去のいざこざで長年揉めていたはずなのに、ここ数年は何も報じられていない。全ては政府の情報統制に依るもので、テレビやラジオ、新聞には戦争関連のニュースは一切出ていない。だから、日本は平和なのだと国民は信じきっている。
ゴウンと音を立てて揺れながら、船は岸壁から徐々に離れていった。