第二十二話・作戦行動開始
文字数 1,714文字
その日は早朝から日本全国で異常が多発した。
まず、国内にある全ての空港で航空管制システムに障害が発生。これにより国内線は臨時欠航が相次いだ。元々アジアを中心に新型の感染症が流行、国際線の発着自体が制限されていたため、大きな混乱は起きなかった。
次に、大規模な通信障害。
固定電話などには影響はないが、衛星を中継する通信については完全に遮断された。携帯電話、スマートフォンなども一部地域で使用出来なくなる事態に。有線以外の通信に頼らなくてはならないもの、つまり飛行機や船、電車などの交通機関は通信が復旧するまで運行を停止することとなった。現場は大混乱。乗車券を手にした乗客から詰め寄られ、乗務員達は状況説明に奔走した。
日本の空と海が一時的に空白地帯となった。
これは各地で同時刻に決行される敵国の基地及びミサイルを破壊する作戦の第一段階である。人為的に通信障害を起こし、基地同士や本国とのやり取りを遮断することで対応を遅らせるのが狙いだ。
弊害として、作戦の参加者達も互いに連絡を取り合う事が出来なくなっている。
「時間です。行きましょう」
まず最初に飛び出したのは
これから島の中心部にある小学校跡地に向かい、ミサイルを破壊するのだ。事前に打ち合わせた通り二手に分かれて行動する。
安賀田率いる班は、右江田と多奈辺。メインの道路から真っ直ぐ目的地に向かう。
三ノ瀬率いる班は、ゆきえとさとる。全員軽自動車だ。裏道から目的地を目指す。
真栄島は最初から別行動で、状況に応じて動く手筈となっている。
敵国の人間がいるであろう離島に何故近付くことが出来たのか。
それは、事前にこの船が
そして、アリの存在。
胡散臭い、いかにも裏稼業の人間といった日系人の彼が船を動かしている。積み荷は海外で人気の日本車と女。戦争が始まる直前の最後の荒稼ぎだと判断された。袖の下も有効だった。
その立場を利用して船の故障を装い、港に一時寄港の許可を得たのだ。その際、見張りを言葉巧みに船内に誘い込んで制圧し、通信機や装備を奪うことに成功した。これでしばらくは怪しまれない。
しかし、幾ら通信が出来なくとも狭い島だ。見慣れない車が何台も走っていたり、大きな音を立てれば嫌でも目立つ。時間を与えればミサイルを発射されてしまうかもしれない。そうさせない為にも短時間で目的を果たさなくてはならない。
小さな港には数隻の小型船があった。古い漁船だ。無人島になって数年経っているはずだが、最近も使われている形跡があった。恐らく、この島にいる敵国の人間が食料確保のために利用しているのだろう。
安賀田率いる班は港を出て左手に曲がった。島の外周をぐるっと回るルートが一番道幅が広い。が、予想通りバリケードが築かれていた。廃材や工事用フェンス、コンクリートブロックなどで車が通れないように塞がれている。ここには見張りはいない。
頑丈な車ばかりだが、無理やり突っ込めば大きな音を立ててしまう上に車が壊れて走行出来なくなる可能性が高い。この道は島のメインの道路である。つまり、この島にいる敵国の人間も利用している。片側は簡単に開くはずだ。
右江田が車外に出た。人力で障害物を取り除くためだ。腕まくりをし、軍手をはめる。周囲を見回してからバリケードに駆け寄り、構造をざっと確認する。そして、足元に積まれていたコンクリートブロックを幾つか路肩に放り投げ、工事用フェンスを退かす。これで車が通れるようになった。
右江田が作業している間、多奈辺は窓を開け、拳銃を構えて周辺の警戒にあたった。幸いまだ気付かれていない。作業を終えた右江田が乗り込むのを確認してから、安賀田を先頭に三台の車が再発進した。