第三十四話・通信復旧

文字数 1,321文字




「──船が増えてる」

 右江田(うえだ)の言う通り、港には今朝にはなかった漁船が一隻増えていた。しかも、自分たちの乗ってきた小型の自動車運搬船の真横に。このまままっすぐ船まで戻るのは危険だ。

 山頂にいたのは数人の見張りだけ。この島を任された敵方の責任者はいなかった。あの漁船で物資の補給か何かの用事で出掛けていたのだろう。
 一応見張りに許可を得て停泊させてもらっている(てい)だが、問題はそこではない。
 港からも見える山頂の爆発。部外者が島に入った後にこうなった。つまり、地対艦ミサイルを破壊した実行犯が誰か一目瞭然ということだ。

「……とりあえず港から離れたほうがいいわよね」
「わ、分かりました」
「了解です!」

 動揺の隠せない様子の右江田に代わり、三ノ瀬(みのせ)が指示を出し、さとる達はそれに従った。あまりエンジンをふかせないように注意を払いながら車をじわじわと後退させていく。

 堤防や港の敷地付近に人影は見えない。
 いつ漁船が着いたのか。
 何人乗っているのか。
 敵か、ただの釣り人か。
 何も分からない以上警戒する他ない。

 その時、三ノ瀬が声を上げた。


「待って待って。真栄島(まえじま)さんから電話きた! てか、電波戻ってたんだ〜!」
「マジですか、なんて?」

 先ほどまでは日本全土を覆う大規模な電波障害が発生しており、携帯電話や無線での連絡は取れなくなっていた。これは敵方に本国や本隊との連携をさせないための措置である。
 この島は現在無人で、携帯会社の中継局は機能していない。故に、三ノ瀬が所持しているのは作戦に参加する勧誘員に支給された衛星電話だ。電波障害の影響でずっと使えずにいた。
 何故このタイミングで復旧したかは分からないが、真栄島とコンタクトが取れたことで、全員の不安が少しだけ和らいだ。

「役場跡地の辺りにいるって。あ、切れた」
「三ノ瀬センパイ、どこっすかそれ!」
「分かんなぁい」

 別行動中の真栄島からの連絡に、右江田は心底ホッとしたが、すぐにまた不安げな表情に戻った。島のどこに何があるかまでは把握しておらず、役場跡地の場所が分からないからだ。三ノ瀬も同じだ。
 そこに、ゆきえが声を上げた。

「あの、私、場所分かります」
「うそっ、堂山(どうやま)さん知ってるの?」
「ええ。全部暗記してますから」

 ゆきえは船にいる間に島の地図を全て暗記していた。それは大まかな道だけではなく、住宅街の建物の配置や小さな抜け道までも。目的地の小学校跡地以外にも、役場や郵便局、商店などは特に正確に覚えている。

「道順、教えてください」
「この道の港を過ぎたところにある交差点を左に折れて直進、その突き当たりです」

 さとるの車が先に出て、他の二台は後ろから付いて走ることになった。しかし、住宅街の中心部にある役場跡地に向かうには港の真ん前を通るルートしかない。
 港付近の道路は開けていて建物などの遮蔽物がない。遠くからでも見つかってしまう。港には倉庫のような建物が幾つもあり、何者かが潜んでいる可能性もある。

「どうせ私たちがいることはバレてるんだし、的にされないよう一気に走り抜けましょ!」
「うわあ……まあ、それしかないですよね」
「分かりました!」

 真栄島と合流するため、三台の車はアクセル全開で走り出した。
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登場人物紹介

堂山ゆきえ(31歳)


保護政策推進計画『協力者』

保険代理店に勤務

昨年モラハラ夫と協議離婚

シングルマザー

娘のみゆき(2歳)と2人暮らし

安賀田まさし(48歳)


保護政策推進計画『協力者』

自動車部品メーカー勤務の会社員

妻ちえこ(50歳)と2人暮らし

難病の妻の看病のため勤務時間減少

そのため、社内での立場は弱い

多奈辺さぶろう(59歳)


保護政策推進計画『協力者』

工事現場の交通誘導員

孫のひなた(8歳)と2人暮らし

息子夫婦と妻を亡くしている

おっとりしていて争い事を嫌う

井和屋さとる(20歳)


保護政策推進計画『協力者』

昼間は工場、夜は居酒屋で働く

実家から出て1人暮らし

毎日弟の世話をしに実家に立ち寄る

母親から搾取されている

真栄島のぼる(59歳)


保護政策推進課『勧誘員』

穏やかな老紳士


三ノ瀬りん(31歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

常に明るくポジティブな性格

とある趣味を持っている

右江田しんじ(29歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

高身長の強面のため教師の夢を断念

三ノ瀬を先輩として慕っている

杜井やえか(39歳)


保護政策推進課『勧誘員』

夫と死別、子どもと2人暮らし

キャリアウーマン風

葵久地れい(27歳)


保護政策推進課『情報担当』

独身、実家暮らし

長い黒髪、メガネ

情報収集、情報操作が得意

アリ(年齢不詳)


保護政策推進課『技師』

日系二世

トレードマークは入れ墨

船の操縦、車の改造を担当

江之木まさつぐ(39才)


保護政策推進計画『協力者』

会社員

りくと(14才)と二人暮らし

妻とは死別

多奈辺ひなた(8才)


保護政策推進計画『保護対象者』

多奈辺の孫娘、小学生

両親を交通事故で亡くしている

祖父と二人暮らし

井和屋みつる(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

さとるの弟、中学生

母親と二人暮らし

育児放棄気味の母より兄が好き

江之木りくと(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

江之木の一人息子、中学生

母親はりくと出産時に死亡

みつるとは塾で友達になった

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