第十二話・シェルター

文字数 1,448文字

 マイクロバスは高速道路を通り、協力者達を乗せた町から二時間ほど移動した所で下道に降りた。そのまま、山奥へと入っていく。

 最初ははしゃいでいた二歳のみゆきは途中で疲れて寝入ってしまった。それにつられ、八歳のひなたも座席の手すりに凭れかかって小さな寝息を立てている。ちえこも薬の副作用で眠ったままだ。起きている保護対象者はさとるの弟、みつるだけ。

「にいちゃん。この車、どこ行くの?」
「安全なところだよ」
「えっ、でも……」

 みつるは不安げに車内を見回した。年齢も性別もバラバラの同乗者達。とても共通点があるように思えない。

「さとる君、みつる君は賢い子だ。本当のことを教えてもいいだろうか」
「……」

 真栄島(まえじま)がそう言うと、さとるは数秒考えた後、小さく頷いた。

「本当のこと……?」
「そう。この車は今、シェルターに向かっているんだよ。そこで君は保護される」

 シェルターと聞いて、みつるは首を傾げた。いまいちピンときていないようだ。

「シェルターは地下深くに造られた施設で、外部からのあらゆる攻撃に耐えられる構造をしている。内部には生活に必要なあらゆるものが備え付けられている。もちろん勉強する場所も病院もあるよ」

 その説明を協力者の四人も聞いていた。実際に内部を見たわけではない。これまで口頭で断片的な情報を聞いただけ。どのような施設かはみな興味を持っている。

 学校の先生のように簡単な言葉で優しく教えてくれる真栄島に対し、みつるは良い印象を抱いていた。しかし、その説明の中に不穏な単語が混ざっていることにも気付いていた。
 隣に座る兄の手をぎゅうと握り、みつるはそれ以上何も聞くことが出来なくなった。

 マイクロバスは山と山の間の道を走り続けた。徐々に道幅は狭くなっていったが、すれ違う車はいない。
 そのうち、金網と有刺鉄線で作られた柵に道が分断されている場所に着いた。柵の一部が開くようになっている。運転手が無線でどこかに連絡すると、その柵が左右に開いた。柵を抜けた先は、一般車両が入ることの出来ない場所だ。

「ここから先は国有地です。辺り一帯の山もそうですが、この柵の内部は部外者は入れません」

 マイクロバスは舗装された道を進んでいく。鬱蒼と生い茂る木々が日光を遮り、昼間であるにも関わらず薄暗い。その中をしばらく行くと、ついに目的の場所へ到着した。
 やや拓けた場所に出た。削られた山の斜面の一部がコンクリートや金属製の壁で覆われている。そこに大きな扉らしきものがあった。

「着きました。ここです」

 真栄島の言葉に、車内の起きている者は全員外を見た。とはいえ、まだ壁面しか見えない。

「傍目には崖崩れ対策の擁壁(ようへき)にしか見えないでしょう? あの扉の向こうに空間があって、大型エレベーターが設置されています。それを利用して地下へと降りるんですよ」

 この山の地下深くに巨大な施設がある。そう聞いて、全員無意識に下を見た。傍目には全く分からない。

 目の前の扉が轟音を立ててゆっくりと開いた。
 向こうから現れたのは、もう一台のマイクロバスだった。中に数人乗っているのが見えた。あちらが出て、こちらが代わりに扉の内部に入っていく。すれ違う際に、中に乗っていた背広姿の女性が軽く手を振ってきた。真栄島達も手を振り返す。

「ああ、杜井(どい)さんだ。あっちの方が到着が早かったか」

 真栄島と同じ勧誘員である杜井の担当する者達も今日招集されたのだ。

「さて、協力者の皆さんが入れるのはここまでです。保護対象者……ご家族とはここでお別れとなります」
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登場人物紹介

堂山ゆきえ(31歳)


保護政策推進計画『協力者』

保険代理店に勤務

昨年モラハラ夫と協議離婚

シングルマザー

娘のみゆき(2歳)と2人暮らし

安賀田まさし(48歳)


保護政策推進計画『協力者』

自動車部品メーカー勤務の会社員

妻ちえこ(50歳)と2人暮らし

難病の妻の看病のため勤務時間減少

そのため、社内での立場は弱い

多奈辺さぶろう(59歳)


保護政策推進計画『協力者』

工事現場の交通誘導員

孫のひなた(8歳)と2人暮らし

息子夫婦と妻を亡くしている

おっとりしていて争い事を嫌う

井和屋さとる(20歳)


保護政策推進計画『協力者』

昼間は工場、夜は居酒屋で働く

実家から出て1人暮らし

毎日弟の世話をしに実家に立ち寄る

母親から搾取されている

真栄島のぼる(59歳)


保護政策推進課『勧誘員』

穏やかな老紳士


三ノ瀬りん(31歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

常に明るくポジティブな性格

とある趣味を持っている

右江田しんじ(29歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

高身長の強面のため教師の夢を断念

三ノ瀬を先輩として慕っている

杜井やえか(39歳)


保護政策推進課『勧誘員』

夫と死別、子どもと2人暮らし

キャリアウーマン風

葵久地れい(27歳)


保護政策推進課『情報担当』

独身、実家暮らし

長い黒髪、メガネ

情報収集、情報操作が得意

アリ(年齢不詳)


保護政策推進課『技師』

日系二世

トレードマークは入れ墨

船の操縦、車の改造を担当

江之木まさつぐ(39才)


保護政策推進計画『協力者』

会社員

りくと(14才)と二人暮らし

妻とは死別

多奈辺ひなた(8才)


保護政策推進計画『保護対象者』

多奈辺の孫娘、小学生

両親を交通事故で亡くしている

祖父と二人暮らし

井和屋みつる(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

さとるの弟、中学生

母親と二人暮らし

育児放棄気味の母より兄が好き

江之木りくと(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

江之木の一人息子、中学生

母親はりくと出産時に死亡

みつるとは塾で友達になった

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