第十九話・共に戦う覚悟
文字数 1,716文字
眠っていたさとるも小一時間ほどで目を覚ました。酔い止めが効いているようで、もう気分は大丈夫そうだ。
「……あの女の子、お孫さんですか?」
重い沈黙を破ったのは、ゆきえの小さな声だった。マイクロバスの中での事を言っているのだ。
「ええ、孫娘のひなたです」
「良い子ですね。うちのみゆきと遊んでくれて助かりました」
「いえいえ、こちらこそ。御宅のお嬢さんが居なかったら大人だらけのバスの中で退屈していたと思います」
まだ互いのことを知らない。これから共に命を懸けるのだから、交流を深めておく必要がある。
「皆さん、自己紹介しますか。今日会ったばかりでお互い名前も知らないですし」
この会話を切っ掛けに、安賀田が場を取り仕切る。もし安賀田が言わなければ真栄島がそう切り出すつもりだった。
「じゃあ、まず私から。
先に一人が名乗ると次がやりやすくなる。ハイと手で隣を指せば、自然とそういう流れが出来た。
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協力者の次は勧誘員達だ。
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右江田と三ノ瀬の自虐的な挨拶で場はやや明るくなった。暗くなりがちなメンバーの中で、二人はムードメーカー的な存在だ。
「あの、失礼ですが貴方がたも家族をシェルターに入れる為に? その、優先枠とかはないんですか」
聞きにくい内容だが、そこを敢えて安賀田が尋ねた。
「残念ながら一般職員に優先枠はないんです。というか、この件を知っているのは現場に携わる人間以外だと知事や副知事くらいですかね。県議会議員程度の方は知らないと思いますよ。トラブルになりかねませんから」
「それもそう、ですね……」
多くの人に知られれば、立場を利用して身内をシェルターに入れるように画策するだろう。故に最低限の、実際に事に関わる人間にのみ事情が知らされている。
「我々には先月政府の担当者から直に打診が来ました。条件は皆さんと同じです。家族の保護と引き換えに作戦に参加するわけです」
「……」
条件は同じ。つまり、彼らも様々な事情を抱えているという事だ。単なる仕事で命を懸けられるはずがない。家族の為だからこそ、今この船に乗っている。
「警察や海上保安庁の上層部はもちろん知ってます。色々と融通をきかせてもらわないといけないですからね。自衛隊はこの作戦で露払いが終わってから動く手筈となっています」
この怪しい船が平然と一般航路を進んでいられるのも事前に許可を得ているからだ。そうでなければ工業港に停泊する事すら出来なかっただろう。
作戦──近隣の島々に作られた敵国の軍事施設を破壊してあちらの先制攻撃を防ぐ事。それさえ出来れば本土が戦場になる可能性が格段に減る。割り当てられた場所で成果を出せば、あとは自衛隊がなんとかしてくれる。
「全てがうまくいけば、この船で皆さんを回収して戻れます。ただ、これだけは覚えておいて下さい。もし捕虜になったとしても、
七人のうち誰かが欠ける。または、全員死ぬ可能性もある。
いざとなれば誰かが助けてくれるという保証もない。そんな中で、初めて扱う武器と今日顔を合わせたばかりの仲間だけを頼りに戦わなくてはならない。
後戻りは出来ない。
やるしかないのだ。