第三十七話・合流地点

文字数 1,091文字

 多奈辺(たなべ)右江田(うえだ)のオフロード車から降りて別行動を開始した頃、先頭を走っていたさとるは目的の役場跡地を発見した。

 この島は数年前に過疎化と高齢化により無人となったが、最盛期には千人を越す住民がいた。役場もそれなりに立派な作りをしている。しかし、言われなければこれが役場だとは思わない、その程度の規模の建物だった。

 二階建て、鉄筋コンクリート製。
 駐車スペースは五台分しかない。
 一階の窓は何箇所か割れている。

 とにかく、真栄島(まえじま)から指定された場所はここで間違いない。さとるは迷わず駐車場に車を止めようとした。

「待って、一度通り過ぎて!」
「へ? あっ、はい」

 突然ゆきえがそれを止めた。
 言われるがまま、さとるは突き当たりの交差点を右に曲がって役場跡地から離れた。後ろを走る三ノ瀬(みのせ)もそれについていく。

「あの、なんで止めたですか」

 百メートルほど先にある民家の広い庭に車を止めてから、さとるは後ろを振り返って尋ねた。

「真栄島さんは軽トラックに乗ってたはずなのに、あそこにはなかった。だからよ」
「あっ……」

 確かに駐車スペースに車はなかった。今まで通ってきた道沿いにも軽トラックは見当たらなかった。
 ゆきえは単なる道案内だけではなく、後部座席から周囲を注意深く観察していた。

「多分状況が変わったんだわ。あのまま役場跡地に行くのは危ないと思う」

 その言葉を裏付けるように、後から来た三ノ瀬が車を横付けしてきた。衛星電話は右頬と肩で挟み、両手はハンドルを握っている。

「また真栄島さんから電話きた〜! 役場跡地の辺りは危ないから移動するって」
「うわ、堂山(どうやま)さんの言う通りだった……」

 港の手前で通話した時からまだ七、八分ほどしか経っていない。短時間に状況が変わったということか。

 電話の向こうの真栄島から新たに指示を受け、この道の更に奥にある空き地で合流することに決まった。
 しかし。

『右江田君は一緒かい?』
「まだ来てないです〜! てゆーか、途中で後ろから居なくなったんですけど。右江田君の車には多奈辺さんも乗ってるのに」

 三ノ瀬の言う通り、役場跡地に向かう道の途中で右江田の車は細い路地に曲がって消えた。背後から狙撃されていたからだ。そこで多奈辺が車を降り、単独行動を始めたことを他のメンバーはまだ知らない。

『途中で襲撃に遭ったのかもしれない』

 右江田も衛星電話を所持している。
 彼は不器用だから運転しながら電話を受けるような真似は出来ない。だから真栄島は()ず三ノ瀬に電話をした。それ以前に、もし襲撃を受けているとすれば他に構っている暇はない。

 落ち合う場所に向け、軽自動車二台は再び動き始めた。
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登場人物紹介

堂山ゆきえ(31歳)


保護政策推進計画『協力者』

保険代理店に勤務

昨年モラハラ夫と協議離婚

シングルマザー

娘のみゆき(2歳)と2人暮らし

安賀田まさし(48歳)


保護政策推進計画『協力者』

自動車部品メーカー勤務の会社員

妻ちえこ(50歳)と2人暮らし

難病の妻の看病のため勤務時間減少

そのため、社内での立場は弱い

多奈辺さぶろう(59歳)


保護政策推進計画『協力者』

工事現場の交通誘導員

孫のひなた(8歳)と2人暮らし

息子夫婦と妻を亡くしている

おっとりしていて争い事を嫌う

井和屋さとる(20歳)


保護政策推進計画『協力者』

昼間は工場、夜は居酒屋で働く

実家から出て1人暮らし

毎日弟の世話をしに実家に立ち寄る

母親から搾取されている

真栄島のぼる(59歳)


保護政策推進課『勧誘員』

穏やかな老紳士


三ノ瀬りん(31歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

常に明るくポジティブな性格

とある趣味を持っている

右江田しんじ(29歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

高身長の強面のため教師の夢を断念

三ノ瀬を先輩として慕っている

杜井やえか(39歳)


保護政策推進課『勧誘員』

夫と死別、子どもと2人暮らし

キャリアウーマン風

葵久地れい(27歳)


保護政策推進課『情報担当』

独身、実家暮らし

長い黒髪、メガネ

情報収集、情報操作が得意

アリ(年齢不詳)


保護政策推進課『技師』

日系二世

トレードマークは入れ墨

船の操縦、車の改造を担当

江之木まさつぐ(39才)


保護政策推進計画『協力者』

会社員

りくと(14才)と二人暮らし

妻とは死別

多奈辺ひなた(8才)


保護政策推進計画『保護対象者』

多奈辺の孫娘、小学生

両親を交通事故で亡くしている

祖父と二人暮らし

井和屋みつる(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

さとるの弟、中学生

母親と二人暮らし

育児放棄気味の母より兄が好き

江之木りくと(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

江之木の一人息子、中学生

母親はりくと出産時に死亡

みつるとは塾で友達になった

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