第三十八話・小休止

文字数 1,428文字

 当初の予定では役場跡地で合流するはずだった。しかし危険を感じたため、そこから少し離れた住宅街の空き地へと落ち合う場所が変更となった。

堂山(どうやま)さん、さとる君、ご無事で何よりです!」

 三人の顔を見るなり、真栄島(まえじま)は笑顔で出迎えてくれた。
 この空き地には廃材が高く積み上げられており、道路側からは奥が見え辛い。周辺の家の窓は全て雨戸が閉められ、何者かが潜んだり狙撃してくる可能性は非常に低い。
 元からそうだったのではない。ここを安全地帯のひとつにすべく、真栄島が事前に家々に侵入して雨戸を閉めて回ったのだ。

「……そうですか、安賀田(あがた)さんが」

 三ノ瀬(みのせ)から報告を受けて見上げると、山頂からはまだ黒煙が立ち上っていた。

 先ほどの爆発には気付いていた。今回の作戦の目的である地対艦ミサイルの破壊が成されたと分かり、あとは全員が戻ってくるのを待つばかりと思っていた。協力者の中から犠牲者を出してしまったことに責任を感じ、真栄島は唇を噛んで辛い気持ちを堪えた。

「彼のおかげで我々のチームは無事任務を完了することが出来ました。後は帰るだけなんですが、そうもいかなくなってしまって……」
「港に船が増えてたんですけど、あれってやっぱ敵が乗ってたやつですか」
「ああ、間違いない。あの船が着いた後、武装した兵士が何人か島に上陸した……私は早めに気付いたから身を隠せたんですよ」

 さとるの問いに、真栄島は険しい表情で頷いた。

「右江田君や多奈辺さんとも合流したいが、迂闊に動くと危ない。連絡を入れて、ここまで来てもらう方がいいでしょう」
「でもぉ、さっきからずーっと掛けてるのに全然出ないんですけど〜」

 三ノ瀬は真栄島と話しながら、衛星電話で右江田に連絡を試みていた。呼び出し音は鳴るから電話機が故障しているわけではない。運転中か、それとも。

 ゆきえとさとるの不安そうな様子を見て、真栄島はニコッと笑ってみせた。

「疲れたでしょう。水と携帯食くらいしかありませんが、少し食べて休んでください。見張りは私がやりますから」

 そう言って、ペットボトルと小さな包みを手渡す。
 二人はそれを受け取ると、僅かに表情を緩めた。ずっと緊張状態が続いていて気が休まる時がなかった。今も決して安全とは言えないが、任務は完了している。少なくとも義務や責任感からは解放された。

 真栄島は空き地の出入り口付近の物陰に隠れ、見張りを始めた。
 三ノ瀬は右江田に連絡を試みながら非常食のショートブレッドをかじり、空いた手で手持ちの銃に弾を補充している。

「あ、そうだ、武器」

 無反動砲(ロケットランチャー)も手榴弾も、もう無い。
 自分が丸腰であることに気付き、さとるは焦ったように声を上げた。三ノ瀬がニッと笑う。

「あるわよ〜武器。真栄島さんが持ってきてくれたからね〜」
「えっ」
「真栄島さんは私達と別行動してる間に敵の拠点から物資を回収してくれてたのよ〜。もちろん武器もねっ」

 軽トラックの荷台には幾つかの銃火器と弾薬入れが積まれていた。
 三ノ瀬達が見張りを撃退して山道を登った後、真栄島は見張りの潜んでいた場所を見つけ、運び出せないものは壊し、使えそうな物資を奪った。武器や予備の弾薬さえ押さえておけば敵はそれほど脅威ではない。

 その後、出来るだけ分かりやすい場所で落ち合おうと役場跡地を指定したが別の見張りの拠点だったため、慌てて合流地点を変更した、ということらしい。

「さあ、どれがいい〜?」

 まるで露店の売り子のように、三ノ瀬は二人に銃を勧めた。
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登場人物紹介

堂山ゆきえ(31歳)


保護政策推進計画『協力者』

保険代理店に勤務

昨年モラハラ夫と協議離婚

シングルマザー

娘のみゆき(2歳)と2人暮らし

安賀田まさし(48歳)


保護政策推進計画『協力者』

自動車部品メーカー勤務の会社員

妻ちえこ(50歳)と2人暮らし

難病の妻の看病のため勤務時間減少

そのため、社内での立場は弱い

多奈辺さぶろう(59歳)


保護政策推進計画『協力者』

工事現場の交通誘導員

孫のひなた(8歳)と2人暮らし

息子夫婦と妻を亡くしている

おっとりしていて争い事を嫌う

井和屋さとる(20歳)


保護政策推進計画『協力者』

昼間は工場、夜は居酒屋で働く

実家から出て1人暮らし

毎日弟の世話をしに実家に立ち寄る

母親から搾取されている

真栄島のぼる(59歳)


保護政策推進課『勧誘員』

穏やかな老紳士


三ノ瀬りん(31歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

常に明るくポジティブな性格

とある趣味を持っている

右江田しんじ(29歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

高身長の強面のため教師の夢を断念

三ノ瀬を先輩として慕っている

杜井やえか(39歳)


保護政策推進課『勧誘員』

夫と死別、子どもと2人暮らし

キャリアウーマン風

葵久地れい(27歳)


保護政策推進課『情報担当』

独身、実家暮らし

長い黒髪、メガネ

情報収集、情報操作が得意

アリ(年齢不詳)


保護政策推進課『技師』

日系二世

トレードマークは入れ墨

船の操縦、車の改造を担当

江之木まさつぐ(39才)


保護政策推進計画『協力者』

会社員

りくと(14才)と二人暮らし

妻とは死別

多奈辺ひなた(8才)


保護政策推進計画『保護対象者』

多奈辺の孫娘、小学生

両親を交通事故で亡くしている

祖父と二人暮らし

井和屋みつる(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

さとるの弟、中学生

母親と二人暮らし

育児放棄気味の母より兄が好き

江之木りくと(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

江之木の一人息子、中学生

母親はりくと出産時に死亡

みつるとは塾で友達になった

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