第二十七話・母親への憧れ
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このまま
その様子を見て、校舎の中にいた敵方が動き始めた。先ほどは安賀田のパフォーマンスに
身を隠して狙撃するならばともかく、走りながら撃つのは難しい。だが、的が大きければ当たる。
「うわっ!」
敵方の一人が
ヒヤヒヤしながらも、自分達は車、相手は生身という事実に優位性を感じていた。
「でも、油断したら
さとるは前を走るゆきえの車を目で追った。
山を登る手前の住宅街で、ゆきえはさとるを庇って足を撃たれた。手拭いで傷を覆っただけの状態だ。血を流しながらも心配かけまいと気丈に振る舞うゆきえの姿を思い出し、ハンドルを握る手に力を込める。
さとるの母あやこは我が子のために身を呈してくれるような人間ではなかった。
外では良い母親を演じているが、人目がなくなればすぐに芝居をやめる。暴力こそ振るわれなかったが、不機嫌を隠さず態度で示されるだけでも怖かった。いつもより音を立てて開け閉めされるドア。荒く机に置かれるコップ。食事が用意されないことは当たり前。学校の給食だけで凌いだ日も多かった。
そんなことより存在を無視されるほうが辛かった。
さとるは早い段階であやこからの見返りを諦めていた。高校に入ってアルバイトが出来るようになってからは稼いだ金を渡し、家事をして、弟のみつるに苛立ちの矛先が向かないようにした。高校を卒業して世帯分離してからも、渡す金が増えただけで何一つ変わらなかった。
だから、ゆきえを見て複雑な思いを抱いた。
世の中には我が子のために身体を張る母親がいるのだと初めて知った。失敗しても怒らず笑顔を向けてくれる、絵に描いたような理想の母親。
マイクロバスの中で眠る小さな女の子の髪を優しく撫でていた姿を思い出す。
何故それが自分の母親ではなかったのだろう。
どうして自分は大事にされなかったのだろう。
「……母さんになってくれねーかなぁ」
無意識のうちに自分の口からこぼれ落ちた言葉に、さとる自身が驚いた。
散々打ちのめされ、絶望しながらも、まだ母親という存在に憧れ、求めている。大人になった
おかえりと出迎えてくれる。
側にいけば抱き締めてくれる。
美味しいごはんを作ってくれる。
学校であったことを聞いてくれる。
頑張ったことを認めて褒めてくれる。
やりたいことを心から応援してくれる。
弟の親代わりをしていたが、それは全部自分がしてほしかったことを出来る範囲でやっただけ。
本当は、さとるが一番愛情に飢えている。
安賀田や
ゆきえも彼らも家族の元に返してやらねば。
さとるに大きな目標が出来た。