第十七話・武器講習

文字数 1,629文字

 次に、実際に車の内部を見て説明を聞く。
 案内役は強面(こわもて)の職員、右江田(うえだ)だ。この中では最も背が高く体格が良い。彼は手前にある軽自動車の運転席のドアを全開にし、協力者達によく見えるようにしながら解説を始めた。親しみを感じてもらえるよう心掛けているが、元々の顔立ちが(いか)ついせいで笑顔も怖い。

「運転自体は普通の車と変わらないんで、覚えるのは爆弾の発射方法だけっすね。操作方法は簡単で、真ん中、左手側のシフトレバーのすぐ横に設置されてる赤いボタンを押すだけっす」

 説明通り、シフトレバーのすぐ横には赤いボタンが取り付けられていた。誤操作防止のため、スライド式のプラスチックカバーが付いている。何本かの配線が助手席にある鋼鉄製のボックスに繋がっている。

「いま押しても弾は出ないんで試しに押してみます?」
「え、いや、いいです」
「だーいじょーぶですって! まだ安全装置解除してないんで! いざって時に押せないとヤバいから」

 遠慮するさとるに対し、右江田は執拗にボタンを押すように迫った。興味の方が勝ったか、右江田の迫力に圧されたのか。何度か断った後で、さとるは意を決して運転席に座って赤いボタンに手を掛けた。
 全員の視線が集まる中プラスチックカバーをずらし、さとるはグッと指に力をこめた。カチッとボタンが沈み込む音がしたが、発射されることはなかった。

「ね、意外と簡単っしょ?」
「……はあ、確かに」
「ちなみに照準は固定なんで。フロントガラスの印のある辺りに飛んでくと思って。射程距離は三百メートルくらいだけど、確実なのは百以内かな。より近くから放てば外れる確率減るんで、出来るだけ標的に接近してからボタン押してください」

 右江田が指差した場所には透明シートにプリントされた的のようなものが貼り付けられていた。要は車の前方百メートル以内ということだ。的は大きくはないらしいので、確実に当てるためにはかなり接近しなくてはならない。

「あとコレ、手榴弾は知ってます?」

 次に、三ノ瀬(みのせ)が何処からか段ボールを引きずってきた。中には数個の手榴弾が入っている。その中の一つを取り出し、全員に見えるように差し出し、ピンに指を引っ掛けて抜く真似をした。

「使い方は簡単です。このレバーを押しながら安全ピンを引き抜いて投げる、これだけ!」

 笑顔でレクチャーするには物騒な内容だ、と四人の協力者は思った。三ノ瀬は構わず使い方の説明を続ける。

「みなさん、ボール投げって最近やりました?」
「いや、大人になってからは全く」
「私も」
「学生の時にやったきりですね」
「あ、俺はたまに投げてるけど」
井和屋(いわや)さん以外はブランクありますね〜。出撃前に肩を回しておいた方がいいかも」

 言いながら、三ノ瀬はその辺にあったゴムボールを投げた。ボールは目の前に落下。その数メートル先にある壁にすら到達しなかった。

「……とまあ、私は全然飛ばせないんで手榴弾(コレ)は使わないです! もし実戦でこの距離で落ちたら投げた方が死にますからね!」

 清々しいほどの開き直りっぷりだが、自分の身体能力を正しく把握していないと命を無駄にしてしまう。本来ならば、ロケットランチャーも手榴弾も訓練された兵士が使うべき兵器なのだから。

 協力者達もゴムボールを投げ、自分がどれくらい投げられるのかを確認した。結果、五十九才の多奈辺(たなべ)は思うように肩が動かず手榴弾の使用は中止。代わりに拳銃が支給されることとなった。こちらは警察官が使う回転式拳銃で弾数は五発。建物を破壊するには向かないが、ガラスを割ったり鍵を壊すくらいは出来る。

「実際の手榴弾はペットボトル一本ぶんの重さがあります。安全ピンを引き抜いてから約四秒後に爆発するので、必ず体を隠せる場所を確保してから投げてくださいね〜!」

 四秒は意外と短い。もし誤ってすぐ側に落下した場合を考えても、遮蔽物がある場所から投げるのが望ましい。
 二人から手取り足取り教わり、四人は戸惑いながらも順調に使い方を習得していった。
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登場人物紹介

堂山ゆきえ(31歳)


保護政策推進計画『協力者』

保険代理店に勤務

昨年モラハラ夫と協議離婚

シングルマザー

娘のみゆき(2歳)と2人暮らし

安賀田まさし(48歳)


保護政策推進計画『協力者』

自動車部品メーカー勤務の会社員

妻ちえこ(50歳)と2人暮らし

難病の妻の看病のため勤務時間減少

そのため、社内での立場は弱い

多奈辺さぶろう(59歳)


保護政策推進計画『協力者』

工事現場の交通誘導員

孫のひなた(8歳)と2人暮らし

息子夫婦と妻を亡くしている

おっとりしていて争い事を嫌う

井和屋さとる(20歳)


保護政策推進計画『協力者』

昼間は工場、夜は居酒屋で働く

実家から出て1人暮らし

毎日弟の世話をしに実家に立ち寄る

母親から搾取されている

真栄島のぼる(59歳)


保護政策推進課『勧誘員』

穏やかな老紳士


三ノ瀬りん(31歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

常に明るくポジティブな性格

とある趣味を持っている

右江田しんじ(29歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

高身長の強面のため教師の夢を断念

三ノ瀬を先輩として慕っている

杜井やえか(39歳)


保護政策推進課『勧誘員』

夫と死別、子どもと2人暮らし

キャリアウーマン風

葵久地れい(27歳)


保護政策推進課『情報担当』

独身、実家暮らし

長い黒髪、メガネ

情報収集、情報操作が得意

アリ(年齢不詳)


保護政策推進課『技師』

日系二世

トレードマークは入れ墨

船の操縦、車の改造を担当

江之木まさつぐ(39才)


保護政策推進計画『協力者』

会社員

りくと(14才)と二人暮らし

妻とは死別

多奈辺ひなた(8才)


保護政策推進計画『保護対象者』

多奈辺の孫娘、小学生

両親を交通事故で亡くしている

祖父と二人暮らし

井和屋みつる(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

さとるの弟、中学生

母親と二人暮らし

育児放棄気味の母より兄が好き

江之木りくと(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

江之木の一人息子、中学生

母親はりくと出産時に死亡

みつるとは塾で友達になった

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