第五十二話・シェルター内部

文字数 1,236文字

 見慣れぬ天井に、さとるの意識が一気に覚醒した。勢い良く上体を起こし、周りの状況を確認する。
 シングルベッドのみの何もない狭い室内。出入り用の扉があるだけで窓はない。壁にあるのは室内灯と空調の換気口だけ。時計もなく、今が何時かすら分からない。
 ベッドから降り、ドアノブに手を掛ける。鍵は掛かっておらず、扉はすんなり開いた。

「…………どこ?」

 無機質な白い壁と廊下が左右に広がっている。同じような扉が向かいにも等間隔に並んでおり、部屋の中は同じ造りなのだろうと想像がついた。下手に動いたら自分のいた部屋を見失いそうで、さとるはわざと扉を開けっ放しにしておいた。
 しん、と静まり返る廊下を歩く。
 無数に並ぶ扉と違う場所を視界の端に見つけ、とりあえずそこに行ってみたが、ただのシャワールームとトイレだった。

 昨夜、案内係から簡単な説明を受けていたことを思い出し、ここはシェルターの中なのだと再確認する。
 まだ夜明け前の時間帯なのだろうか。他の人の姿は見当たらない。気配もない。静か過ぎる空間に、好奇心より不安が大きくなる。
 さとるは探索を切り上げ、すぐに先ほどの部屋へと戻った。再びベッドに転がり、今までのことを振り返る。

 ある日突然真栄島(まえじま)達が訪ねてきて、戦争回避のために協力してくれと持ちかけられた。見返りは弟の保護。自分の命の保証はないと知りながら参加した。知らない大人たちと組まされ、無人島に兵器を破壊しに行った。そこで、自分を庇ったゆきえが怪我を負い、安賀田(あがた)多奈辺(たなべ)を犠牲にして任務は達成した。

「そうだ、みつる……」

 もう二度と会えないと思っていた。でも、こうして生きて戻ってこられた。別れてから丸二日。早く無事な姿を見せて安心させたいと気持ちばかりが(はや)るが、疲労が抜けきっていないさとるはまた眠りについた。






 数時間後に案内係が呼びにくるまで、さとるは眠った。車に積んだままだったカバンがいつのまにか運び込まれている。シャワーを浴びてから着替えて身支度を整えてから、別のフロアへと案内された。
 先ほどまでのフロアと違い、こちらには人の気配がある。シェルターのスタッフらしき人達がすれ違いざまに「おはようございます」と声を掛けてくる。その度に、さとるは曖昧な笑みを浮かべて軽く頭を下げた。

 通された部屋は小さな会議室だった。窓はないが、中央に大きなテーブルがあり、それを囲むように椅子が置かれている。
 中では真栄島と三ノ瀬(みのせ)が待っていた。昨日とは違うスーツだ。二人は並んで椅子に座り、テーブルを挟んだ向かいの席をさとるに勧めてきた。

「さとる君おはよう。よく眠れましたか」
「あっハイ、おはようございます……」

 指定された椅子に腰を下ろしながら、さとるは出入り口をちらりと見た。

 他には誰も来ないのだろうか。
 ゆきえは、右江田(うえだ)はいないのか。

 そう考えているのが伝わったのか、真栄島から「あと二人来るまでお待ち下さい」と声を掛けられた。

 しかし、やってきたのは知らない人物だった。
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登場人物紹介

堂山ゆきえ(31歳)


保護政策推進計画『協力者』

保険代理店に勤務

昨年モラハラ夫と協議離婚

シングルマザー

娘のみゆき(2歳)と2人暮らし

安賀田まさし(48歳)


保護政策推進計画『協力者』

自動車部品メーカー勤務の会社員

妻ちえこ(50歳)と2人暮らし

難病の妻の看病のため勤務時間減少

そのため、社内での立場は弱い

多奈辺さぶろう(59歳)


保護政策推進計画『協力者』

工事現場の交通誘導員

孫のひなた(8歳)と2人暮らし

息子夫婦と妻を亡くしている

おっとりしていて争い事を嫌う

井和屋さとる(20歳)


保護政策推進計画『協力者』

昼間は工場、夜は居酒屋で働く

実家から出て1人暮らし

毎日弟の世話をしに実家に立ち寄る

母親から搾取されている

真栄島のぼる(59歳)


保護政策推進課『勧誘員』

穏やかな老紳士


三ノ瀬りん(31歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

常に明るくポジティブな性格

とある趣味を持っている

右江田しんじ(29歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

高身長の強面のため教師の夢を断念

三ノ瀬を先輩として慕っている

杜井やえか(39歳)


保護政策推進課『勧誘員』

夫と死別、子どもと2人暮らし

キャリアウーマン風

葵久地れい(27歳)


保護政策推進課『情報担当』

独身、実家暮らし

長い黒髪、メガネ

情報収集、情報操作が得意

アリ(年齢不詳)


保護政策推進課『技師』

日系二世

トレードマークは入れ墨

船の操縦、車の改造を担当

江之木まさつぐ(39才)


保護政策推進計画『協力者』

会社員

りくと(14才)と二人暮らし

妻とは死別

多奈辺ひなた(8才)


保護政策推進計画『保護対象者』

多奈辺の孫娘、小学生

両親を交通事故で亡くしている

祖父と二人暮らし

井和屋みつる(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

さとるの弟、中学生

母親と二人暮らし

育児放棄気味の母より兄が好き

江之木りくと(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

江之木の一人息子、中学生

母親はりくと出産時に死亡

みつるとは塾で友達になった

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