第三十三話・次の障害
文字数 1,224文字
「ああ、そんな……」
ゆきえは今にも泣きそうな表情で後部座席の窓に張り付いている。運転席に座るさとるは、気まずそうに頭を掻いた。
ひとり残った
喜ぶべきだと思ったが、ゆきえは違った。
「あのまま山頂にいたら俺たちも爆発に巻き込まれてました。だから、安賀田さんは一人で残って」
「そうまでしなきゃダメだったの? こんなの、やっぱりおかしいわよ……」
ついに、ゆきえはボロボロと涙をこぼし始めた。その姿をバックミラー越しに見て、さとるは黙り込んだ。
彼女は普通の感性を持っている。こんな異常な状況下に置かれてもそれは変わらない。付き合いの短い仲間の死に対しても本気で憤り、本気で悲しんでいる。これが真っ当な人間の当たり前の反応なのだろう。
それに比べ、さとるは落ち着いていた。
状況が異常過ぎて理解が追いついていないだけかもしれないし、何より優先すべき存在を見つけたからかもしれない。
ゆきえを無事に帰すこと。
それだけがさとるの目標になった。
クラクションの音に顔を上げると、前方に止まる
山頂ではまだ断続的に爆発が起きている。非常に危険な状況だ。安賀田の安否の確認しに行くという選択肢は無い。確認しなくても生存は絶望的だろうと誰もが思っていた。
現在地はまだ山に近い。早く港まで戻り、船に乗ってこの島から出る。
そして、シェルターに家族を迎えに行くのだ。
島の外周をぐるっと回る道を走り、ようやく港が見える地域まで戻ってきた。ここまで来れば山から火の粉や木片が降ってくることもなく、安心して車外に出られる。
遠くに
「どうしたんですか右江田さん」
車を横付けして窓を開け、さとるが声を掛ける。
右江田は視線を港に向けたまま、いつになく険しい表情で口を開いた。
「──
今日の早朝、この港を出発した時よりも船の数が増えている。そう言われ、さとるは息を飲んだ。