第三十三話・次の障害

文字数 1,224文字

 激しい爆発音が島中に響き渡った。

 (ふもと)まで降り、港へ向かう途中だった三台の車はあまりの衝撃に進むのを止めた。爆風に乗って火の粉や木片のようなものが空からパラパラと降ってくる。恐る恐る窓越しに見上げれば、先ほどまで居た山頂辺りで大きな爆発が起きているのが見えた。

「ああ、そんな……」

 ゆきえは今にも泣きそうな表情で後部座席の窓に張り付いている。運転席に座るさとるは、気まずそうに頭を掻いた。

 ひとり残った安賀田(あがた)が何をしようとしていたか、さとるは知っていた。知った上で先に山を降りた。この爆発を見て、彼が目的を果たしたことも分かった。安賀田のことは頼れる大人として尊敬していた。同じ協力者という立場でありながらリーダーシップがあり、終始落ち着いて行動していた。ここに連れて来られた最大の目的である『地対艦ミサイルの破壊』。それを、彼は命懸けで成し遂げた。
 喜ぶべきだと思ったが、ゆきえは違った。

「あのまま山頂にいたら俺たちも爆発に巻き込まれてました。だから、安賀田さんは一人で残って」
「そうまでしなきゃダメだったの? こんなの、やっぱりおかしいわよ……」

 ついに、ゆきえはボロボロと涙をこぼし始めた。その姿をバックミラー越しに見て、さとるは黙り込んだ。

 彼女は普通の感性を持っている。こんな異常な状況下に置かれてもそれは変わらない。付き合いの短い仲間の死に対しても本気で憤り、本気で悲しんでいる。これが真っ当な人間の当たり前の反応なのだろう。

 それに比べ、さとるは落ち着いていた。
 状況が異常過ぎて理解が追いついていないだけかもしれないし、何より優先すべき存在を見つけたからかもしれない。

 ゆきえを無事に帰すこと。
 それだけがさとるの目標になった。

 クラクションの音に顔を上げると、前方に止まる右江田(うえだ)のオフロード車がゆっくり前進し始めたところだった。合図をくれたのは後ろの三ノ瀬(みのせ)だ。

 山頂ではまだ断続的に爆発が起きている。非常に危険な状況だ。安賀田の安否の確認しに行くという選択肢は無い。確認しなくても生存は絶望的だろうと誰もが思っていた。
 現在地はまだ山に近い。早く港まで戻り、船に乗ってこの島から出る。
 そして、シェルターに家族を迎えに行くのだ。





 島の外周をぐるっと回る道を走り、ようやく港が見える地域まで戻ってきた。ここまで来れば山から火の粉や木片が降ってくることもなく、安心して車外に出られる。

 遠くに登代葦(とよあし)港から自分たちを運んだ小型の自動車運搬船の姿を見つけ、協力者たちは安堵した。しかし、先頭を走っていたオフロード車が港の手前で急停止した。さとると三ノ瀬の軽自動車も、それに倣って止まる。

「どうしたんですか右江田さん」

 車を横付けして窓を開け、さとるが声を掛ける。
 右江田は視線を港に向けたまま、いつになく険しい表情で口を開いた。

「──()()()()()()

 今日の早朝、この港を出発した時よりも船の数が増えている。そう言われ、さとるは息を飲んだ。
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登場人物紹介

堂山ゆきえ(31歳)


保護政策推進計画『協力者』

保険代理店に勤務

昨年モラハラ夫と協議離婚

シングルマザー

娘のみゆき(2歳)と2人暮らし

安賀田まさし(48歳)


保護政策推進計画『協力者』

自動車部品メーカー勤務の会社員

妻ちえこ(50歳)と2人暮らし

難病の妻の看病のため勤務時間減少

そのため、社内での立場は弱い

多奈辺さぶろう(59歳)


保護政策推進計画『協力者』

工事現場の交通誘導員

孫のひなた(8歳)と2人暮らし

息子夫婦と妻を亡くしている

おっとりしていて争い事を嫌う

井和屋さとる(20歳)


保護政策推進計画『協力者』

昼間は工場、夜は居酒屋で働く

実家から出て1人暮らし

毎日弟の世話をしに実家に立ち寄る

母親から搾取されている

真栄島のぼる(59歳)


保護政策推進課『勧誘員』

穏やかな老紳士


三ノ瀬りん(31歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

常に明るくポジティブな性格

とある趣味を持っている

右江田しんじ(29歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

高身長の強面のため教師の夢を断念

三ノ瀬を先輩として慕っている

杜井やえか(39歳)


保護政策推進課『勧誘員』

夫と死別、子どもと2人暮らし

キャリアウーマン風

葵久地れい(27歳)


保護政策推進課『情報担当』

独身、実家暮らし

長い黒髪、メガネ

情報収集、情報操作が得意

アリ(年齢不詳)


保護政策推進課『技師』

日系二世

トレードマークは入れ墨

船の操縦、車の改造を担当

江之木まさつぐ(39才)


保護政策推進計画『協力者』

会社員

りくと(14才)と二人暮らし

妻とは死別

多奈辺ひなた(8才)


保護政策推進計画『保護対象者』

多奈辺の孫娘、小学生

両親を交通事故で亡くしている

祖父と二人暮らし

井和屋みつる(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

さとるの弟、中学生

母親と二人暮らし

育児放棄気味の母より兄が好き

江之木りくと(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

江之木の一人息子、中学生

母親はりくと出産時に死亡

みつるとは塾で友達になった

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