第七十八話・怒りの矛先
文字数 1,637文字
その様子に、さとると
「
「どーゆーつもりだ尾須部の奴」
「ふ、二人とも、くれぐれも早まらないでね。下手するとカメラに映っちゃう」
怒り心頭といった二人を宥めるのは
テレビカメラが講演会を取材しに来るのは予想外だった。録画ならともかく、生中継では情報操作が及ばない。とにかく目立たぬよう声を抑え、さとる達が暴走しないように努めた。
『この少年達は爆撃前にシェルターに入っていたため被害を免れました。何故彼らは事前にシェルターに入れたのか、分かりますか?』
──さとる達以外には。
住む場所を追われ、家族を失ったであろう人々から「狡い」「酷い」「何であの子達だけ」という声が上がり、ステージ上にいるみつる達は気まずそうに俯いた。
非難が二人に集中する前に、阿久居が軽く手を挙げて再び注目を集めた。途端に体育館の中がシンと静まり返る。
『もちろん、無条件でシェルターに入れた訳ではありません。彼らの保護者が彼らの保護と引き換えに命懸けの危険な任務に就いたからです』
「え、そこまで言う?」
「アイツ何考えてんだ」
阿久居が語ったのは、まさに
『その任務というのは、まさに皆様の住む場所を爆撃した兵器、その破壊です。政府は秘密裏に民間人に協力を要請し、家族の保護と引き換えに戦場に送り込みました!』
ここで一気に会場がどよめいた。
『この少年達の保護者は、慣れない武器を持たされ、兵器の破壊を命じられました。中には任務中に亡くなられた方もいるとか。何の訓練も受けていない一般市民ですからね、成功率も高くはなかったようです。……成功していれば、
これを聞いて、亥鹿野市からの避難民達が怒りの声を上げた。何故素人にやらせた、何故自衛隊がやらなかった、そんな怒号が飛び交う。
「何も知らねえヤツらが勝手なことを」
「三ノ瀬さん、まだ出ちゃダメ?」
「待って、周りが怖いんだって!」
江之木が舌打ちし、さとるはいつでも動けるように片膝を立てている。それに対し、三ノ瀬は身動きが取れずにいた。下手に動けばマスコミのカメラだけではなく、体育館内にいる避難民達全員を敵に回すことになりかねないからだ。
『これらは全て政府の誤った方針の結果です。本来ならば守るべき民間人に断れないような条件を突き付け、命を差し出させた。速やかに自衛隊を動かさなかったのも政府の失策。そのため、この少年達は保護者と離れ離れになってしまいました。……このような理不尽が
阿久居が大袈裟に手を広げ、みつるとりくとを指す。すると、今度は会場内から「酷い」「可哀想」などの同情する声がチラホラ聞こえてきた。
そう訴える阿久居こそが、まさに安全なシェルターから子ども達を無断で連れ出させた張本人だというのに。
「やっぱり政府批判……!」
わざわざ避難所で避難民達を前にして何を語るかと思えば、政府に対するヘイトを集めるための煽動だった。人々の怒りの矛先を政府に向けさせて支持率を下げる。それこそが阿久居の狙い。不安定な情勢下で支持率が下がれば統制の取れた対策が取りづらくなり、敵対国にとって有利となる。
みつるとりくとは講演会を盛り上げるための材料として呼ばれたのだ。大事な弟を利用され、さとるの怒りが頂点に達した。