第十六話・作戦内容

文字数 2,278文字

 これから何をやらされるのか、協力者達はまだ詳しく聞かされていない。ただ、命懸けであること、生きては帰れないかもしれないとだけは知っている。

「貴方がたは、何故自分が選ばれたのか分かりますか」

 真栄島(まえじま)の問い掛けに協力者達は顔を見合わせた。そして、ぽつぽつと思い付いた理由を口に出した。

「えっと、なんだろ」
「……シェルター代が払えないから?」
「守りたい家族がいるから?」
「これくらいじゃないかな」

 それを聞きながら、真栄島達はうんうん頷く。しかし、理由はそれだけではなかった。

「それもありますが、実はもうひとつあるんですよ。それは、貴方がたが日常的に車を運転しているという点です」
「く、車……?」
「そう。今回の作戦では車を使いますので」

 確かに四人は日常的に車を利用している。ゆきえも安賀田(あがた)多奈辺(たなべ)もさとるも同じ地方都市の住民だ。通勤に車は欠かせない。
 もちろん、それだけではない。

「ごくありふれた条件だと思うでしょう。でも、これがなかなか難しい。私達が担当した地域で条件に合致した人は数十名おりましたが、ちゃんと話を聞いてくれた人はその半分以下、更に承諾してくださった方は貴方がただけです」
「そ、そうだったんですか……」

 荒唐無稽な話だ。まず信じない人がほとんどである。何度訪ねても見知らぬ人とは話もしないという頑なな人もいた。話の内容的に、玄関先で立ち話というわけにはいかない。受け入れてもらえなくては先の話に進めない。

 車を使うと聞いて、四人は周りを見回した。薄暗い船内に見えるのは軽自動車やワンボックスカーなど、統一感のない中古車ばかり。それとは別に、隅にはカバーが掛けられた塊があった。

 車の数は七台。
 ここにいる人数は七人。

「普通の車ですよね?」
「ええ、見た目は。中身は少々改造してます」

 右江田(うえだ)が立ち上がり、一番近くに停めてある車のドアを開けた。運転席は普通だが、助手席部分に金属製の大きな塊がある。

「これは爆弾です。運転席に取り付けたこのスイッチを押すと、フロントグリルを突き破って前方に発射されます。平たく言うとロケットランチャーっすね。本来は担いで使うんですが、重いので固定してあります」
「一台につき一発ずつ撃てるようにセットされてます。それと手榴弾が幾つか。使い方はこの後お教えします」
「ろ、ロケットランチャー……」

 ゆきえは青褪めるばかりだったが、男性陣はやや前のめりでこの話を聞いていた。

「これらの武器は自衛隊の訓練で使用したり、老朽化や破損のため廃棄した、()()()()()()()()()()()()。故に帳簿には載っておらず、もちろん敵対国にも知られていない。……逆に言えば、これくらいしか持ち出せなかったということです」

 助手席の下部、グローブボックスからエンジンルームに突き抜けるように鋼鉄製の筒が刺さっている。ボンネットを開けてみると、ラジエーターが本来より小型のものに替えられており、そこに出来た隙間に砲身が通されていた。旧式の無反動砲だ。次弾装填は不可能。故に、ここぞという時にのみ撃つことになる。

「安全装置が数ヶ所ありますので、いま発射されることはありません。出発前にロックを解除して、手元のスイッチひとつで済むようにします」
「これで兵器を壊すんですか」
「ええ。現地に行ってみないことにはどのような兵器があるか分かりませんが、これだけあれば何とかなるでしょう」

 小型ロケットランチャーには対戦車榴弾が込められている。命中すれば大抵の建造物の壁は破壊出来るだろう。

 三ノ瀬(みのせ)が大きな紙を広げた。目的地である無人島の見取り図だ。中央部分に赤く印が付けられている。

「私達が襲撃するのはここです。日本の離島で、住民は高齢者ばかり十数人しかおらず、数年前に全員本土に移住して現在は無人島となっております。人の出入りは時折釣り人が船で立ち寄るくらい。島の中央にある小学校跡地が敵対国の拠点して再利用されている、という調査報告がきてます」

 島民がいない、つまり他者を巻き込む恐れがないということだ。それには協力者達も安堵した。危険なものを扱うのだ。もし誤って無関係な人を傷つけてしまったら取り返しがつかない。

「じゃあ、小学校の建物を壊せばいいんですか」
「いえ、その付近に兵器が配備されていると予想しています。開けた場所、運動場あたりかと。その兵器の射程距離が百キロくらいでしたら太平洋沿岸地域が攻撃範囲に入ります。おそらく狙われるのは最寄りの自衛隊基地か、県庁所在地、市街地などでしょう」

 調査というのも現地で直接調べたわけではない。衛星写真の画像解析と国籍不明の船舶の出入りなどの情報から総合的に見て判断している。本土に危険を及ぼす兵器が運び込まれているのは間違いない。
 参考に見せられた写真にはトラックの荷台部分に弾頭が搭載されているタイプの地対艦ミサイルが写っていた。これは日本の自衛隊が所有しているものなので、実際に現地にあるものとは異なる。

 戦争に有効な兵器なら守りが固いはずだ。
 もし兵器の破壊を妨害されたら?
 それでも躊躇なく攻撃することが出来るのか。

「島はそこまで広くありません。この船で港に乗り付け、車で中央まで移動して兵器を破壊するのが目的です。数年前まで人が住んでいたので道路はあります。ただ、もしかしたら容易に通行出来ないようバリケードなどが設置されていたり、見張りがいるかもしれません」

 車で敵陣に突っ込み、兵器をロケットランチャーで破壊する。シンプルな作戦ではあるが命懸けだ。四人はなんとも言えない表情で互いの顔を見合わせた。
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登場人物紹介

堂山ゆきえ(31歳)


保護政策推進計画『協力者』

保険代理店に勤務

昨年モラハラ夫と協議離婚

シングルマザー

娘のみゆき(2歳)と2人暮らし

安賀田まさし(48歳)


保護政策推進計画『協力者』

自動車部品メーカー勤務の会社員

妻ちえこ(50歳)と2人暮らし

難病の妻の看病のため勤務時間減少

そのため、社内での立場は弱い

多奈辺さぶろう(59歳)


保護政策推進計画『協力者』

工事現場の交通誘導員

孫のひなた(8歳)と2人暮らし

息子夫婦と妻を亡くしている

おっとりしていて争い事を嫌う

井和屋さとる(20歳)


保護政策推進計画『協力者』

昼間は工場、夜は居酒屋で働く

実家から出て1人暮らし

毎日弟の世話をしに実家に立ち寄る

母親から搾取されている

真栄島のぼる(59歳)


保護政策推進課『勧誘員』

穏やかな老紳士


三ノ瀬りん(31歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

常に明るくポジティブな性格

とある趣味を持っている

右江田しんじ(29歳)


保護政策推進課『勧誘員補佐』

独身、1人暮らし

高身長の強面のため教師の夢を断念

三ノ瀬を先輩として慕っている

杜井やえか(39歳)


保護政策推進課『勧誘員』

夫と死別、子どもと2人暮らし

キャリアウーマン風

葵久地れい(27歳)


保護政策推進課『情報担当』

独身、実家暮らし

長い黒髪、メガネ

情報収集、情報操作が得意

アリ(年齢不詳)


保護政策推進課『技師』

日系二世

トレードマークは入れ墨

船の操縦、車の改造を担当

江之木まさつぐ(39才)


保護政策推進計画『協力者』

会社員

りくと(14才)と二人暮らし

妻とは死別

多奈辺ひなた(8才)


保護政策推進計画『保護対象者』

多奈辺の孫娘、小学生

両親を交通事故で亡くしている

祖父と二人暮らし

井和屋みつる(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

さとるの弟、中学生

母親と二人暮らし

育児放棄気味の母より兄が好き

江之木りくと(14才)


保護政策推進計画『保護対象者』

江之木の一人息子、中学生

母親はりくと出産時に死亡

みつるとは塾で友達になった

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