053 \DEPARTURE/

文字数 1,431文字

 朝焼けとともに村民たちも目覚めだし、ぼちぼちと仕事に出る用意が整いだしたあとには、作業舎だけでなく、行務棟の周辺も人の行き来が頻繁になってしまう。

 人目につくことでウタビィに余計な迷惑がかからぬよう、ヴォロプと照壬は夜明けの直前、長い夜業がじきに終わる時分だと言うのに、ぐっすり眠った二人よりも元気溌剌なウタビィに見送られ、央都の南東約二七ミリアに位置していたイェタータス村を出発した。

 今日もまたヴォロプが先を行き、そのストライドの広い歩調に負けじと、照壬は、朝っ(ぱな)から意地尽くのピッチ歩法であとに続く──。

 岩群(いわむら)が完全に蓋いおおせた川を右手に見ながら、谷沿いを暫く行く内に、太陽が昇りだす。
 朝陽までが、西に聳える山山から

に今日を立ちあげ始めて、ヴォロプの足の運びに合わせるかのように、一日がズンズン稼働状態へと推し進められていってしまう。 

「フワ~ッ……久久の朝らしいガチ朝だな。今日も太平無事と、地獄の開幕かぁ。てか、地獄も天国も同じで、何がどう暮らしているかの違いだって説が大当たりっぽいよな……」

 旅立つ挨拶をウタビィと交わしてから、ダンマリ続きの挙句に漸く口を開いたにしては、照壬の欠伸ついでな所懐の吐露は、朝一番でヴォロプの癇に触ることとなった。

「まったく。前途が洋洋な分、多難で遠い旅路の本当の第一日目だって言うのに、夜が明けたと同時に何なのよそれ~? いつまでもホケホケしてないでっ」 

「……やっぱここは地獄で、オレの前を行くのは……はて、どちら様でしたっけ?」

「こんな朝ものっけから、アタシ渾身のバッチンを受けたいわけなの?」

「オレはそんな、Mヤバ野郎じゃないっての。単なる他愛ない戯れ言だろが、ヴォロプのその意気込みすぎを、ほぐしておこうって気配りからのな」

「はてさて、一体何を口走ってるのかしら? テルミもヴヴ‐ドゥプルス火山の東にあるニーアポリへ帰るという設定なのよっ。そんな、こっちでは通じない軽口で正体がバレても、置いて行っちゃうだけなんだから」

「……だったな。了解だけど、まだ降心できていないんだな? ヴォロプが全速力でオレを置き去りにしてもだ、ノキオに聞けば、スグに追いなおせるんだよな」

「アラそ?」

「それにオレは、アジリティーは高い方だと思うし、短距離じゃなく長距離タイプ。二時間もあれば、こうしてまた後ろを歩いているだろうからな、邪険にするだけ虚しくなると思うぞ」

「だ~か~ら~、ニーアポリ出身の人は、アジリティーとかタイプとか、ニジカンなんて言葉は使わないのっ」

「……だな。オレは、もう少し意気込まないとな……でもその格好、どう見たってヴォロプなんだよなぁ、やっぱ。悪いけど、そんな正体隠しに馴じむには、もう暫くかかりそうだな」

 ヴォロプは今、レインコートを着継いではいない。
 背負った旅嚢の中に仕舞ってはあるものの、代わりに、カプトというフード付きの長マントを纏っている。
 その上、肩にかかる長さでそろえたストレートの黒髪に、この世界のゴーグルと言える、ヘッドバンドに穴を開けて色ガラスを縫い付けたプリザーヴァルも装着。
 右腰には、物干し竿級の刃渡りがあるラァピア。左腰に革鞭まで下げて、赤い瞳と眉睫(びしょう)ばかりか、愛嬌ある美貌まで隠し捨てた見るからに豪傑女子じみた出で立ち。

 その足元にさえ及べる気がしない照壬は、自ずと三歩後ろの距離を保っていたはずが、いつの間にか四歩へ後退してしまっているように思えてくる。
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登場人物紹介

名前:照壬慧斗(てるみ・けいと) 祖父に躾‐育てられたお祖父ちゃんコ 一見至ってフツウの高一だがオトナびていると言うより発想からして老けているカンジ なので、どうせなるようにかなりゃしないからと人間関係や社会に対して漠然とした恐れがなく、自分が納得できる道のみをマジメに地道にやれるだけ進み続けるタイプの自己中傾向 しかしながら目立たないので浮きもしない、だが浮いたヤカラの邪魔が入ると途端にとんでもなく脱線してしまう危うさにも気づけずにきた大甘ちゃん……

名前:ヴォロプテュロス=フワム・ケールブロム(愛称:ヴォロプ) 本年度のレギナ・ルテ・ヴヴ

当世界きっての鬼ヤバ存在の一つである大量破壊人間‐ボムバーナ ロマリア国の西部ヴヴ・トゥプルス火山の南麓に位置するフワム半島出身 

半島自体が村で、村の子供が義務的に完全習得しなければならない必須教育を主席修了した女子をレギナ・ルテ・ヴヴと呼び、その年の村の顔役として各国に招かれる言わばこの世界のミスコンクイーンみたいなモノ



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