005 身のまわりには魔物がウジャララ~
文字数 1,969文字
「ウ~ン……どう言うこと?」
照壬は思わず鼻まじろぎをしてしまう。
「……悪い、アレルが調べきれないのが、なんか愉快にカンジただけだ。そもそも、あのお節介女子がオレを呼び止めた理由だ。オレが遅刻続きなのは母方の祖父さんが変な強張りで、毎朝デイサーヴィスの送迎バスに乗せるまでが一苦労だからだ。従姉の娘たちを保育園へ送ることも、こっちの時間割おかまいなしで頼まれるしな」
「もう義務教育じゃないとは言えヒドい権利侵害だよねぇ。そっちの堪忍袋の緒も、もうスグ切れちゃうんじゃない?」
「……一応、身内と赤の他人じゃ緒の太さが違う。それに、従姉の娘たちはヘンキーぽさが可愛いし、双子なんで何かと大変なのはわかるし。祖父さんも旅行会社で長いことツアコンをやっていたから、文句や愚痴が英語を始めいろんな国の言葉でな、なんだかロノベみたいで笑えちまって、別段キツくもないんだよな」
「ヘンキーって、ピョンピョン変テコなダンスをする妖精だっけ? ロノベはゴメンね~、たぶん初耳だよぉ」
アレルも、ピョンピョンと跳んでから悪怯れて見せた。
「召喚すると、外国語やレトリックを教えてくれるっていう、ソロモン王が使役していたとされる七二悪魔の一員のことだ。あの祖父さんは赤が好きで、つかみどころもないしな」
「ヘ~、なんだ謙遜なんじゃないかぁ。そっち方面のことは間違いなくボクより詳しいよ、なんか意外だけどさ」
「詳しかない。こっちに来てから、ざっと調べてみただけだ」
「……その、今ざっとした印象だと、調べてみたくなっちゃったってわけなんだね?」
「まぁな。そうしたオレのウザ苦しい一身上の都合は話してあるのに、担任はまるで意に介せないらしい。生徒の誰もが高校通い最優先の生活をさせてもらえるのが当然だと思っていやがる。遅刻なんてどうでもいいじゃねぇか、勉強はちゃんとすると覚悟を決めているんだし」
「あ~ハズレだねその担任、昔の熱血ドラマとか観て教師を選んだ固定観念の塊りだきっと。公僕の自覚もなく、安定性だけで公務員やってるのがほとんどだし」
「……やっぱりか。熱血そうなのも、フリだけ全開ってカンジだしな。……ガチにいたんだとはなぁ、そんな人としてクソなヤカラって」
そう言い終えた余韻みたく吐き続けられる照壬の溜息には、絶望が高濃度で漏れ出ているかのよう。
アレルも時をおかずに正常化を図ろうと話題を転じにかかる。
「でさ、どうして、そんなファンタジックビーイングについて調べたくなっちゃったわけ? そもそも慧斗みたいな性分の人から、そうした言葉が出たこと自体が意外なんだし~」
「……オレの世間が狭すぎるんだろうが、山には祖父サマを始めまともな人しかいなかったもんで。こっちには同じ人間だとは思えない我利我利亡者ばっかウジャラけていやがるから、人間の皮を被った魔物としか思えなくってな。人間じゃないなら、とりあえずは仕方がないとガマンも利くが、まぁ諦めきるまでの過渡期ってところだ今はまだ」
「なるほど~。それでガマンの限界を超えたら躊躇も容赦もなくボコれちゃうわけだぁ。でもこの辺りはまだマシだと思うよ、都心ほど人としての何かがズレ歪んだ露骨にまともじゃない奴らで溢れ返ってるもん。とにかく強烈な思い込みと欲望が上京させて、そんな連中がまともな原住都民を駆逐していっちゃうからさぁ」
そう残念がるアレルからは、恰 も、都心部が自分のモノであるかのごとき口広にすぎた滲み出しが照壬には感じられてならない。
「……てか、オレからすればアレルも充分まともじゃないけどな。何を他人事みたく言ってるんだとしか聞こえやしない」
「アハハ、だろうねぇ。でも、都内からして場所によりけりさ、妙に寛容だったり人情に厚かったり、魔物っぽさムンムンで集まり暮らしてるんだ。ボクも都民どころか日本人じゃないから、って言うか、慧斗にとっての人間じゃないだろうからよくわかる~」
「そ? まぁオレには関係ない話だ、うまくいけば今月中にも山へ強制送還だろうから……それまでのことを考えると気が重くなってくるな、山へ帰れたら帰れたで祖父サマに合わせる顔がないし……ったくツいてない、人でなしの外道が堂堂と紛れてて、まともであろうとするほど生きづらいなんて狂ってら。オワコンってヤツだったのかよ、この国での世渡りは」
「世渡りとは~、そこまで悲観的になっちゃってるわけ? まあ、こっちにいる親戚たちも慧斗の苦虐 にこそなれ、助けには全然ならなそうだもんねぇ」
「ああ、従姉の女天狗を筆頭に、バフォメットを髣髴 させる髪型の伯母さんにも何をどう弁明しようがムダだな。唯一話が通じる祖母さんも、まるでキキーモアだからアテにできない上に、巻き込んじまったら痛ましすぎちまって、慙愧 に堪たえないってヤツになりそうだしな」
照壬は思わず鼻まじろぎをしてしまう。
「……悪い、アレルが調べきれないのが、なんか愉快にカンジただけだ。そもそも、あのお節介女子がオレを呼び止めた理由だ。オレが遅刻続きなのは母方の祖父さんが変な強張りで、毎朝デイサーヴィスの送迎バスに乗せるまでが一苦労だからだ。従姉の娘たちを保育園へ送ることも、こっちの時間割おかまいなしで頼まれるしな」
「もう義務教育じゃないとは言えヒドい権利侵害だよねぇ。そっちの堪忍袋の緒も、もうスグ切れちゃうんじゃない?」
「……一応、身内と赤の他人じゃ緒の太さが違う。それに、従姉の娘たちはヘンキーぽさが可愛いし、双子なんで何かと大変なのはわかるし。祖父さんも旅行会社で長いことツアコンをやっていたから、文句や愚痴が英語を始めいろんな国の言葉でな、なんだかロノベみたいで笑えちまって、別段キツくもないんだよな」
「ヘンキーって、ピョンピョン変テコなダンスをする妖精だっけ? ロノベはゴメンね~、たぶん初耳だよぉ」
アレルも、ピョンピョンと跳んでから悪怯れて見せた。
「召喚すると、外国語やレトリックを教えてくれるっていう、ソロモン王が使役していたとされる七二悪魔の一員のことだ。あの祖父さんは赤が好きで、つかみどころもないしな」
「ヘ~、なんだ謙遜なんじゃないかぁ。そっち方面のことは間違いなくボクより詳しいよ、なんか意外だけどさ」
「詳しかない。こっちに来てから、ざっと調べてみただけだ」
「……その、今ざっとした印象だと、調べてみたくなっちゃったってわけなんだね?」
「まぁな。そうしたオレのウザ苦しい一身上の都合は話してあるのに、担任はまるで意に介せないらしい。生徒の誰もが高校通い最優先の生活をさせてもらえるのが当然だと思っていやがる。遅刻なんてどうでもいいじゃねぇか、勉強はちゃんとすると覚悟を決めているんだし」
「あ~ハズレだねその担任、昔の熱血ドラマとか観て教師を選んだ固定観念の塊りだきっと。公僕の自覚もなく、安定性だけで公務員やってるのがほとんどだし」
「……やっぱりか。熱血そうなのも、フリだけ全開ってカンジだしな。……ガチにいたんだとはなぁ、そんな人としてクソなヤカラって」
そう言い終えた余韻みたく吐き続けられる照壬の溜息には、絶望が高濃度で漏れ出ているかのよう。
アレルも時をおかずに正常化を図ろうと話題を転じにかかる。
「でさ、どうして、そんなファンタジックビーイングについて調べたくなっちゃったわけ? そもそも慧斗みたいな性分の人から、そうした言葉が出たこと自体が意外なんだし~」
「……オレの世間が狭すぎるんだろうが、山には祖父サマを始めまともな人しかいなかったもんで。こっちには同じ人間だとは思えない我利我利亡者ばっかウジャラけていやがるから、人間の皮を被った魔物としか思えなくってな。人間じゃないなら、とりあえずは仕方がないとガマンも利くが、まぁ諦めきるまでの過渡期ってところだ今はまだ」
「なるほど~。それでガマンの限界を超えたら躊躇も容赦もなくボコれちゃうわけだぁ。でもこの辺りはまだマシだと思うよ、都心ほど人としての何かがズレ歪んだ露骨にまともじゃない奴らで溢れ返ってるもん。とにかく強烈な思い込みと欲望が上京させて、そんな連中がまともな原住都民を駆逐していっちゃうからさぁ」
そう残念がるアレルからは、
「……てか、オレからすればアレルも充分まともじゃないけどな。何を他人事みたく言ってるんだとしか聞こえやしない」
「アハハ、だろうねぇ。でも、都内からして場所によりけりさ、妙に寛容だったり人情に厚かったり、魔物っぽさムンムンで集まり暮らしてるんだ。ボクも都民どころか日本人じゃないから、って言うか、慧斗にとっての人間じゃないだろうからよくわかる~」
「そ? まぁオレには関係ない話だ、うまくいけば今月中にも山へ強制送還だろうから……それまでのことを考えると気が重くなってくるな、山へ帰れたら帰れたで祖父サマに合わせる顔がないし……ったくツいてない、人でなしの外道が堂堂と紛れてて、まともであろうとするほど生きづらいなんて狂ってら。オワコンってヤツだったのかよ、この国での世渡りは」
「世渡りとは~、そこまで悲観的になっちゃってるわけ? まあ、こっちにいる親戚たちも慧斗の
「ああ、従姉の女天狗を筆頭に、バフォメットを