023 衣食足りたら礼節なんて逆に
文字数 1,781文字
「大貴族ねぇ……世業って、代代続けられている家業だろ? その規模がデカいって、つまりは財閥ってことじゃないかよ。そういうのにも関わらないようにしよっと、どうせエゲツ極まりない連中だと相場は決まっているからな」
「そうかも知れませんけれども、テルミの所持品を高く買ってくれる好事家もいるはずです。テルミを庇護してくれる存在にもなり得るでしょう。これまで多くのディスロケーターが、そうして得た資金と縁故を元手に成りあがり、のしあがっては消えゆく末路を辿っているという事実も歴としてあるのですから」
末路などと何の気ナシに言われては左眉がヒクリ、腕組みもせざるを得ない照壬だった。
「……だろうけどな。まあ、どうしても買わなくちゃならない物が出てきた時に考えるってそれは。てか、デヴィルキンたちは一体どうやって服をつくってるんだ? さっき見た奴、簡単なつくりで天然素材そのまんまってカンジだったけど、ボロくない恰好をしていたよな」
「デヴィルキンたちは獣や小動物の皮、樹皮や葉で衣服をつくります。樹皮を柔らかく伸ばしたり、蔓や動物のはらわたを糸にしたり集めたクモの糸を強くする技量をもっているので。ヘムゥの樹皮やトロの葉などは、そのままで布の代わりになりますし、染色までは難しいですけれども人族がつくる布よりも手軽に仕立てられるでしょう」
「へ~、クモの糸を加工して強化する技術まであるんだ? それ、オレのいた世界じゃ結構新しい技術だぞ、てか、石油を原料にした合成繊維はあるわけこっち?」
「石油が糸や布になるのですか? それは知りませんので、おそらくありませんけれども、デヴィルキンの唾液は、クモの糸をしなやかにして切れ難くするようです」
照壬の表情には、やや落胆が浮かぶ。
「……そう言うのが科学の一分野だって。そっか、人が同じようなことをするなら、こっちじゃ錬金術って言うのかもなぁ」
「錬金術はありますけれども、石油は燃料として使うだけですし、その燃える性質をどんなチカラへ変えるかが究められていると思います」
「そうなんだ? なら、オレの持物も神レアな鬼プレミア品になるかも。でもまず、デヴィルキンと仲好くなる努力をしてみるかな。食と住は何とかなりそうなんで、衣まで自給自足できちまえば一応は安泰だし……けどやっぱクツか~、裸足だったもんなデヴィルキン。コツコツ自作してみるしかないなぁ、時間だけはあるんだし」
「……そんなにクツが重要ですか? 裸足に慣れてしまえばいいではありませんか、それこそコツコツ時間をかけて」
「山を、てか人間をナメんなよノキオ。山で裸足はあり得ないな。いくら慣れても足裏の皮が厚くなるのには限界があるし、厚くなると割れ裂け易くなって、痛いし治り難いし菌も入り易くなるし、感覚もニブって致命的なことになり得るんだ。デヴィルキンと一緒にすんな、形態が似ていても体のつくりが違うっての。オレの唾じゃ、クモの糸のまんまだし」
「……足の裏が人族共通の弱点だったのですね。だからクツを履き、クツを履かない者は虐げられて当然と。なるほどなるほど」
「なんか変に納得しちまっているみたいだけど、まぁそんなカンジだな。てか人間、人素族は全身弱点みたいなもんだから、コツコツ考えて、工夫して凌いでいくしかないんだよなぁ」
照壬はふり仰ぎ、ゆるぎ歩きを始める──。
「……気の進まない理由が、ほかにあるように見受けられるのですけれども」
「だな。自分のためならともかく、同じ人間相手だと、どうにもそのコツコツ凌ぐってのができないんだよなぁオレは。全身弱点を晒しまくっていやがるくせして、
「闘争を考慮に入れるとなれば、クツはやはり重要になるわけですね」
「そ。人をナメないよう躾けられたもんだから、ナメてくる奴を躾け返してやらずにはいられない、それで地獄を見ているんだから始末に負えないよなっ……」
「テルミは、本当に親切な人間だったのですね」
「……てかそれ、ナメてるよなノキオ?」
その場を廻っていた照壬が顰めっ面でその歩みをノキオへ向けると、ノキオは両手を前に突き出し振って拒止の意向を示した。
手足を出しての躾け返しをしてやろうかと照壬が煽った危機感こそが、ノキオの両腕を幹から一気に剥がしたと言える。
「そうかも知れませんけれども、テルミの所持品を高く買ってくれる好事家もいるはずです。テルミを庇護してくれる存在にもなり得るでしょう。これまで多くのディスロケーターが、そうして得た資金と縁故を元手に成りあがり、のしあがっては消えゆく末路を辿っているという事実も歴としてあるのですから」
末路などと何の気ナシに言われては左眉がヒクリ、腕組みもせざるを得ない照壬だった。
「……だろうけどな。まあ、どうしても買わなくちゃならない物が出てきた時に考えるってそれは。てか、デヴィルキンたちは一体どうやって服をつくってるんだ? さっき見た奴、簡単なつくりで天然素材そのまんまってカンジだったけど、ボロくない恰好をしていたよな」
「デヴィルキンたちは獣や小動物の皮、樹皮や葉で衣服をつくります。樹皮を柔らかく伸ばしたり、蔓や動物のはらわたを糸にしたり集めたクモの糸を強くする技量をもっているので。ヘムゥの樹皮やトロの葉などは、そのままで布の代わりになりますし、染色までは難しいですけれども人族がつくる布よりも手軽に仕立てられるでしょう」
「へ~、クモの糸を加工して強化する技術まであるんだ? それ、オレのいた世界じゃ結構新しい技術だぞ、てか、石油を原料にした合成繊維はあるわけこっち?」
「石油が糸や布になるのですか? それは知りませんので、おそらくありませんけれども、デヴィルキンの唾液は、クモの糸をしなやかにして切れ難くするようです」
照壬の表情には、やや落胆が浮かぶ。
「……そう言うのが科学の一分野だって。そっか、人が同じようなことをするなら、こっちじゃ錬金術って言うのかもなぁ」
「錬金術はありますけれども、石油は燃料として使うだけですし、その燃える性質をどんなチカラへ変えるかが究められていると思います」
「そうなんだ? なら、オレの持物も神レアな鬼プレミア品になるかも。でもまず、デヴィルキンと仲好くなる努力をしてみるかな。食と住は何とかなりそうなんで、衣まで自給自足できちまえば一応は安泰だし……けどやっぱクツか~、裸足だったもんなデヴィルキン。コツコツ自作してみるしかないなぁ、時間だけはあるんだし」
「……そんなにクツが重要ですか? 裸足に慣れてしまえばいいではありませんか、それこそコツコツ時間をかけて」
「山を、てか人間をナメんなよノキオ。山で裸足はあり得ないな。いくら慣れても足裏の皮が厚くなるのには限界があるし、厚くなると割れ裂け易くなって、痛いし治り難いし菌も入り易くなるし、感覚もニブって致命的なことになり得るんだ。デヴィルキンと一緒にすんな、形態が似ていても体のつくりが違うっての。オレの唾じゃ、クモの糸のまんまだし」
「……足の裏が人族共通の弱点だったのですね。だからクツを履き、クツを履かない者は虐げられて当然と。なるほどなるほど」
「なんか変に納得しちまっているみたいだけど、まぁそんなカンジだな。てか人間、人素族は全身弱点みたいなもんだから、コツコツ考えて、工夫して凌いでいくしかないんだよなぁ」
照壬はふり仰ぎ、ゆるぎ歩きを始める──。
「……気の進まない理由が、ほかにあるように見受けられるのですけれども」
「だな。自分のためならともかく、同じ人間相手だと、どうにもそのコツコツ凌ぐってのができないんだよなぁオレは。全身弱点を晒しまくっていやがるくせして、
何ナメた態度をとり続けていやがるんだ?
って、結局は手足を出しちまう」「闘争を考慮に入れるとなれば、クツはやはり重要になるわけですね」
「そ。人をナメないよう躾けられたもんだから、ナメてくる奴を躾け返してやらずにはいられない、それで地獄を見ているんだから始末に負えないよなっ……」
「テルミは、本当に親切な人間だったのですね」
「……てかそれ、ナメてるよなノキオ?」
その場を廻っていた照壬が顰めっ面でその歩みをノキオへ向けると、ノキオは両手を前に突き出し振って拒止の意向を示した。
手足を出しての躾け返しをしてやろうかと照壬が煽った危機感こそが、ノキオの両腕を幹から一気に剥がしたと言える。