019 なかったことにしようとする心理作用で
文字数 1,619文字
それは二人の男たちによる内談、それも腹黒さが漂う善からぬ企みといった趣き。
「……どうやら今回のは上玉ってだけでなく、
「へぇ。なら、いつもの顔触れじゃマズいってことかよ? 予定は三日後だろ?」
「それだけあれば、御機嫌取りの一人や二人見つかるだろ? とにかくオシュウェンシムまでの道中さえもてばいいんだ、俺からはどうにかしろとしか言えねぇな」
「言ってくれるぜ、ったく……」
声からは近さは感じられない上に、男二人の姿も一向に見えず、照壬の体からフリーズが解けていってくれるものの、лсДをとりに飛び下りるまでの動作はできそうにない。
лсДがかまえられるというだけで何の根拠もない安心感、その強烈な恋しさから無意識に照壬の右手が反応し、虚しく空を握る──はずだったのに、照壬が握ったのはлсДの柄。
思わず握り締めた感触そのままに、自分の手中に本当にлсДがあるという事実に再び喫驚してしまう照壬だが、それに気づいたノキオもまた、肝を潰して自ら静黙を破る。
「魔法使い、いえ通力 使いだったのですかテルミ? 今も、魔力は全くカンジられませんでしたので」
「へ? ……もしかして神通力のこと? そんなの使えるわけないって。てか、静かにしてないとバレちまうだろが。今の会話、なんかノキオが言っていた悪人っぽいぞ」
声低で舌早 に言う照壬に対して、ノキオは「ええ、そうでしょう。けれども大丈夫です、一方的でこちらの会話は向こうへは届きませんので。ここは、休憩場での話し声がよく聞こえるのです」と、普段どおりの受け答え。
「ガチにっ?」
「ワタクシが考えるに、奥の岩壁が声を跳ね返すだけでなく集めてもくれていて、それを聞き取るのにちょうどいい位置のようです」
「……あぁウィスパリング・ギャラリー・モード、岩壁の凹んだ形状が大きなパラボラアンテナみたいな役目をしているわけだな? オマケにノキオは、ちょうどパラボラが集める音の波がちゃんとした声として聞き取れる焦点に生え育ったってことか」
「……よくわかりません。その、ウィスパリング・ギャラリー・モードとは何でしょう? 詳しく説明してもらえませんか」
それどころではない気がする照壬だが、ノキオに何の緊張感もなくそう言われては、照壬も緩んだ警戒心を高めなおすよりも、さらに解き放く流れへとノってしまわずにはいられない。
「ン~と、
「なるほど。……ならば、ワタクシが生え育つことができたのは、この地形と近くに人族の休憩場があったお蔭だったと言えそうですね。オピは、思考を促される適度な刺激がなければ生長を続けられずに枯れ朽ちてしまいますので」
ノキオの不可思議な一端に合点がいきつつも、小首を傾げだす照壬だった。
「……適度ってか、凄くビミョ~か絶妙じゃないとムリっぽいよなぁ。そんな場所は森に一箇所あるかどうかだろ。なら、ない森にはオピの木も生えていないわけなのか?」
「ワタクシの知る限りではオピが生えていない森はありませんけれども、生えていない森を、一番近いオピが自分の森へとり込ませるということはあり得ます。森は広大になるほど内部にムラが多くなるので、人族は勝手に幾つかの森に分けてしまっていたりしますから、テルミもオピがない森とカンジことはあるかと思います」
「そ? まぁ納得だな。それにこの森を知り尽くして足りない物が判明するまでは、オレがほかの森なんかにまで出かけて行くこともないけどな」
「そうですか。ワタクシとしては、さらなる生長ができそうです。テルミが思いのほか物知りだったので」
「……どうやら今回のは上玉ってだけでなく、
とびきり
らしいぜ」「へぇ。なら、いつもの顔触れじゃマズいってことかよ? 予定は三日後だろ?」
「それだけあれば、御機嫌取りの一人や二人見つかるだろ? とにかくオシュウェンシムまでの道中さえもてばいいんだ、俺からはどうにかしろとしか言えねぇな」
「言ってくれるぜ、ったく……」
声からは近さは感じられない上に、男二人の姿も一向に見えず、照壬の体からフリーズが解けていってくれるものの、лсДをとりに飛び下りるまでの動作はできそうにない。
лсДがかまえられるというだけで何の根拠もない安心感、その強烈な恋しさから無意識に照壬の右手が反応し、虚しく空を握る──はずだったのに、照壬が握ったのはлсДの柄。
思わず握り締めた感触そのままに、自分の手中に本当にлсДがあるという事実に再び喫驚してしまう照壬だが、それに気づいたノキオもまた、肝を潰して自ら静黙を破る。
「魔法使い、いえ
「へ? ……もしかして神通力のこと? そんなの使えるわけないって。てか、静かにしてないとバレちまうだろが。今の会話、なんかノキオが言っていた悪人っぽいぞ」
声低で
「ガチにっ?」
「ワタクシが考えるに、奥の岩壁が声を跳ね返すだけでなく集めてもくれていて、それを聞き取るのにちょうどいい位置のようです」
「……あぁウィスパリング・ギャラリー・モード、岩壁の凹んだ形状が大きなパラボラアンテナみたいな役目をしているわけだな? オマケにノキオは、ちょうどパラボラが集める音の波がちゃんとした声として聞き取れる焦点に生え育ったってことか」
「……よくわかりません。その、ウィスパリング・ギャラリー・モードとは何でしょう? 詳しく説明してもらえませんか」
それどころではない気がする照壬だが、ノキオに何の緊張感もなくそう言われては、照壬も緩んだ警戒心を高めなおすよりも、さらに解き放く流れへとノってしまわずにはいられない。
「ン~と、
囁く回廊様態
と言ってだな、丸みのある曲面で囲われている場所の内側では音が反射を繰り返して意外な位置ではっきり聞こえる現象のことだ。声や音は発信源から遠退くと散り散りになって聞き取れなくなるけど、この奥の岩壁みたく広い曲面で凹んでいると散り散りの音を集めて跳ね返らせて、また聞こえるようにするんだ」「なるほど。……ならば、ワタクシが生え育つことができたのは、この地形と近くに人族の休憩場があったお蔭だったと言えそうですね。オピは、思考を促される適度な刺激がなければ生長を続けられずに枯れ朽ちてしまいますので」
ノキオの不可思議な一端に合点がいきつつも、小首を傾げだす照壬だった。
「……適度ってか、凄くビミョ~か絶妙じゃないとムリっぽいよなぁ。そんな場所は森に一箇所あるかどうかだろ。なら、ない森にはオピの木も生えていないわけなのか?」
「ワタクシの知る限りではオピが生えていない森はありませんけれども、生えていない森を、一番近いオピが自分の森へとり込ませるということはあり得ます。森は広大になるほど内部にムラが多くなるので、人族は勝手に幾つかの森に分けてしまっていたりしますから、テルミもオピがない森とカンジことはあるかと思います」
「そ? まぁ納得だな。それにこの森を知り尽くして足りない物が判明するまでは、オレがほかの森なんかにまで出かけて行くこともないけどな」
「そうですか。ワタクシとしては、さらなる生長ができそうです。テルミが思いのほか物知りだったので」