011 怖いほど確認せずにはいられないっ
文字数 1,759文字
急激に足が重くなりしゃがみ込んでしまいたくなるものの、岩壁から水が染み出していないとも限らないため、照壬は一路‐直往の続行を余儀なくされた。
熟 れていそうな果実をたわわに付けた木もあることはあるのだが、どの実もフルーツのイメージから懸け離れた濁色で形もなんだかグロいために、一つ捥ぎとってみようと手を伸ばす気も起こらない。
また、それらを啄 んでいる小鳥や小動物たちまでが、毒に侵されているかのような、どこか奇怪で不健康な見てくれをしている。
そのため、地獄があるのならばこの山が一丁目だろうと、照壬は幼い頃に祖父サマからよく説教ついでに聞かされた
天国と地獄、もしくは現世と冥界の間にあるという畑地──。
ここも山奥なのに平坦な地形が広く、森の恵みも豊かだが渇きも飢えも満たせない、どっちつかずの中途半端さが似たようなモノ……。
そんな思いも巡らせた照壬は、実はアレルに寝首を掻かれて、自分はとっくに死んでしまっているのではないか? との最悪な帰結も意識にチラつき始めていた。
「それなら辻褄が全部合っちまうよな、納得はできやしないけど……自分にはブチギレてもできないことを、やって退けたオレに湧いた興味‐関心が、嫉妬から凶行におよぶまでの殺意に達する憎悪へとブチギレたってか? どんだけ乾反大尽 なんだよアレル坊ちゃまはっ……」
心ともなく気力が萎えて、重量がないに等しいлсДの握りも緩み、下がった先端が地面を刺して突っ支え棒──照壬の歩みをとうとう止めさせる。
ちょうどスグ脇に、呪わしげな実を付けていない幹も太めな木があったため、照壬はそこへ背中から崩れるようにしてしゃがみ込む。
思わず出た溜息は、深く、長く、徐徐に、低い唸りとなっていく……。
偏にただ後悔……アレルに対する憎悪返しと殺意も混じる怨念の込み上げ……そして、祖父サマへと詫び入り詰めた挙句、もう二度と会える気がしない、狂いだしそうな悲痛にも襲いかかられ、精神的支柱まで引っ剥ぐられた本物の孤独をさめざめと覚えて怖震えざるを得なかった。
かき曇った視界に映る異様な世界が、ますます異状に滲み歪む。
が、嗚咽では狂惑寸前の感情を抑えきれず、喚き叫ばずにはいられなくなったその時、そんな照壬でさえ耳苦しさを覚える呻 き声が響いてきた。
反射的にлсДを掴んで跳ね立ち上がった照壬は、左手でもかっかちめいて目を擦り拭いながら苦り笑う。
「……この期に及んで何が怖いんだかオレは? ……地獄じゃもう、どんなエグい目に遭わされようが死んで終わりにできないしな……でもまだ、オレにはこのлсДがある、感謝なんか絶対しねぇが、その分もブチギレまくって刃向かうまでだっ」
そう腹をくくった照壬は、лсДを両手で握りなおし中段にかまえる。
耳もあらためて欹 てれば、途切れ途切れではあるものの鬼がイビキをかいているかのような声は続いていて、その発生源方向を聞き定めると照壬は暴虎馮河にも驀地 に走りだす。
自棄 だけでなく怨みつらみが、悲しさを悲憤に、憂いを憂憤に転換させて、止め処なき激憤へと増幅したあとは大爆発するのみ。
そんな祖父サマの躾から形成された照壬の十層式封印も一滅、そもそも高い義心と侠気からの攻撃性が剥き出しになった言立てどおりのブチギレまくり状態へ。
その全てをブチかましたい耳障りな相手まで、距離と時間はまだ充分あっても、唯一待ったをかけてくれる重石でもあった祖父サマはもう照壬の中にもいない。
今し方、永 の別れを、溢れた涙で告げ終えてしまっていた。
大体が、祖父サマが預かっているお山と異様なこの山が、同じ坤輿 の上に存在するはずもない、という冷厳な事実がそう照壬に泣く泣く裁断させおおせる。
鬼哭啾啾 よりも鬼吟囂囂とでも表現した方がそぐわしい呻吟 は、繰り寄る内に一本の怪しばんだ大樹の陰から発せられていることが確然となった。
そこは、もう崖下まで草すら生えていない殺伐とした薄暗い空間へと奥まる手前。
聳 つ岩壁が大きなU字形を描いて凹んだその中央で、大ダコの足みたく太い根元がうねり延 えているために、警戒心よりも足場の悪さから照壬は一先ずストップ──。
また、それらを
そのため、地獄があるのならばこの山が一丁目だろうと、照壬は幼い頃に祖父サマからよく説教ついでに聞かされた
さいたら畑
の話を思い出す。天国と地獄、もしくは現世と冥界の間にあるという畑地──。
ここも山奥なのに平坦な地形が広く、森の恵みも豊かだが渇きも飢えも満たせない、どっちつかずの中途半端さが似たようなモノ……。
そんな思いも巡らせた照壬は、実はアレルに寝首を掻かれて、自分はとっくに死んでしまっているのではないか? との最悪な帰結も意識にチラつき始めていた。
「それなら辻褄が全部合っちまうよな、納得はできやしないけど……自分にはブチギレてもできないことを、やって退けたオレに湧いた興味‐関心が、嫉妬から凶行におよぶまでの殺意に達する憎悪へとブチギレたってか? どんだけ
心ともなく気力が萎えて、重量がないに等しいлсДの握りも緩み、下がった先端が地面を刺して突っ支え棒──照壬の歩みをとうとう止めさせる。
ちょうどスグ脇に、呪わしげな実を付けていない幹も太めな木があったため、照壬はそこへ背中から崩れるようにしてしゃがみ込む。
思わず出た溜息は、深く、長く、徐徐に、低い唸りとなっていく……。
偏にただ後悔……アレルに対する憎悪返しと殺意も混じる怨念の込み上げ……そして、祖父サマへと詫び入り詰めた挙句、もう二度と会える気がしない、狂いだしそうな悲痛にも襲いかかられ、精神的支柱まで引っ剥ぐられた本物の孤独をさめざめと覚えて怖震えざるを得なかった。
かき曇った視界に映る異様な世界が、ますます異状に滲み歪む。
が、嗚咽では狂惑寸前の感情を抑えきれず、喚き叫ばずにはいられなくなったその時、そんな照壬でさえ耳苦しさを覚える
反射的にлсДを掴んで跳ね立ち上がった照壬は、左手でもかっかちめいて目を擦り拭いながら苦り笑う。
「……この期に及んで何が怖いんだかオレは? ……地獄じゃもう、どんなエグい目に遭わされようが死んで終わりにできないしな……でもまだ、オレにはこのлсДがある、感謝なんか絶対しねぇが、その分もブチギレまくって刃向かうまでだっ」
そう腹をくくった照壬は、лсДを両手で握りなおし中段にかまえる。
耳もあらためて
仏の顔も三度まで
、なら只人は少なくとも一〇回はガマンしないとな
。そんな祖父サマの躾から形成された照壬の十層式封印も一滅、そもそも高い義心と侠気からの攻撃性が剥き出しになった言立てどおりのブチギレまくり状態へ。
その全てをブチかましたい耳障りな相手まで、距離と時間はまだ充分あっても、唯一待ったをかけてくれる重石でもあった祖父サマはもう照壬の中にもいない。
今し方、
大体が、祖父サマが預かっているお山と異様なこの山が、同じ
そこは、もう崖下まで草すら生えていない殺伐とした薄暗い空間へと奥まる手前。