030 通信プロトコルにスパニング・ツリーってのがあるけどさ
文字数 1,836文字
「どうやって? ……水でもたっぷり飲ませれば生き返るのかっ」
「だから、これはもう枯れ枝も同然なんだってば。まずはこうやってぇ──」
赤髪女子は迷いもなく、顔の中心から生え伸びた枝のようなノキオの鼻を握り、ボッキリと折りとった。
「……なんてことするんだあんたはっ」
「ほら、これを耳に突っ込むの。それでオピ本体の幹に当ててみなさいよ。たぶん話ができるから」
赤髪女子は折った鼻を照壬へ差し出してニコやかに言う。
「ガチでかっ──」飛びつくように受けとった照壬だが、耳孔に入る細い鼻先側を立て向けながら小首を傾げる──「てか、なら何で鼻なんだ?」
「それはぁ……だって、なんかちょうどよかったんだもの掴み易そうに突き出してて。別に、耳に入れて当てるのは、どこでもいいんだけど~」
「……てか、あんたが死んで、自分の鼻が気安く捥ぎとられることを想像してみろっての! ったく、地獄にいるのは結局鬼ばかりかよっ」
そう吐き捨てて照壬はすっくり立ち上がる。
лсДを拾い上げた左手も、ノキオの鼻を握りしめている右手と同量の力を込めて振り延 って、ノキオの樹下へと戻るため直走 りだす。
──スウェットシャツの両袖を、拭った涙と鼻水で濡ればませつつノキオの下へ馳せ着いた照壬は、лсДを放り出し、ノキオの鼻を右手で添えて耳に挿入すると幹へ飛びついた。
「ノキオッ、オレの声が聞こえるか? 何か言ってくれっ」
〈はい、聞こえています。……テルミこそ、ワタクシの声が聞こえますか?〉
「あぁ聞こえるっ。よかったノキオ……あの赤鬼女、ウソこかなかったんだな。よかったノキオ、ガチに……」
照壬は再び涙と鼻水のブン流しで感泣。
〈テルミはやはり泣き虫ですね。斃されてしまったのはワタクシの一部でしかありません、ワタクシは全くの無事ですので。安心して泣き止んでください〉
「……泣き虫じゃないってのっ。大切な人、てか存在と、いきなり二度と話ができなくなったら当然だろうが、そこで泣かなくていつ泣くんだよっ。それで泣けないなんてのは人間じゃないっての……」
〈こうして、また会話ができているではありませんか〉
「ウルセ~──」照壬は幹へ一発、ぎこちない左フックを入れた。
〈大丈夫ですか、その拳? ケガなどされては困ります〉
「ゴメンなノキオ、悪人どもをブッ殺してやれなかった。……まさかノキオが、分身とは言えあんなにあっさり絶え果てちまうとは思わなかったんだ」
〈……わかっていましたけれども、よかったですそれは。テルミを同族殺しにまでしてしまっては、ますます生き難くなりますので〉
「けど、あの御者、ワイヴァーンを操る女のケツはブチ貫いてやった。あの女だろ? ノキオに火を点けやがった奴はっ。あとの二人は遠目ですら腰ぬけだってわかったし」
〈あの振動、と言いますか音は、そんなことをしていたのですね? 草木が生える地面でのこと以外は明確にはわかりませんから、何事かと思っていたのです。勿論、テルミが一方的に圧倒している状況だけは伝わってきましたので、全く心配はしませんでした〉
「オレは、ノキオがやっつけたあとで追い討ちをダメ押しただけだ。変な魔法を喰らうまで、ノキオは完璧だったって」
〈……ですね。喰らってしまって、台ナシです結局〉
「てか、どうしてあいつらが来たことをオレに知らせなかったんだよっ? ワザと、オレを巻き込まないよう顔を洗いに行かせたろ? 最初からノキオ一人で片づけるために、あんな水溜めも拵えたんじゃないのか?」
照壬の責めかけに、ノキオは須臾、返す言葉に詰まった挙句のうち明けをする。
〈バレてましたか……テルミが言うところの、てか、ですね、そもそもこの日のために、ワタクシはあの分身をつくり出したのです〉
「そうだったのか? でも何で」
〈この山で、人身売買の取引までされ始めてはガマンなりません。オピの怒りは森の怒り、顕然と思い知らせる必要がありました。それだけは充分かつ存分に達成できたと思います、テルミのお蔭と言えるのです〉
「……ノキオが助けた赤鬼女がツリーマンとか言っていたけど、あの分身の姿でビビらすだけで、あいつらは二度とここで悪事をしなくなるのか? 分身で牽制し続けないと、スグまた始めるんじゃないのかよ?」
〈……そうですねぇ、テルミにどう説明すればいいでしょうか……〉
「オレが手を貸せば、分身を守れたかも知れないのに、水クサすぎだろが。この森の平和は、もうオレの平和でもあるんだからなっ」
「だから、これはもう枯れ枝も同然なんだってば。まずはこうやってぇ──」
赤髪女子は迷いもなく、顔の中心から生え伸びた枝のようなノキオの鼻を握り、ボッキリと折りとった。
「……なんてことするんだあんたはっ」
「ほら、これを耳に突っ込むの。それでオピ本体の幹に当ててみなさいよ。たぶん話ができるから」
赤髪女子は折った鼻を照壬へ差し出してニコやかに言う。
「ガチでかっ──」飛びつくように受けとった照壬だが、耳孔に入る細い鼻先側を立て向けながら小首を傾げる──「てか、なら何で鼻なんだ?」
「それはぁ……だって、なんかちょうどよかったんだもの掴み易そうに突き出してて。別に、耳に入れて当てるのは、どこでもいいんだけど~」
「……てか、あんたが死んで、自分の鼻が気安く捥ぎとられることを想像してみろっての! ったく、地獄にいるのは結局鬼ばかりかよっ」
そう吐き捨てて照壬はすっくり立ち上がる。
лсДを拾い上げた左手も、ノキオの鼻を握りしめている右手と同量の力を込めて振り
──スウェットシャツの両袖を、拭った涙と鼻水で濡ればませつつノキオの下へ馳せ着いた照壬は、лсДを放り出し、ノキオの鼻を右手で添えて耳に挿入すると幹へ飛びついた。
「ノキオッ、オレの声が聞こえるか? 何か言ってくれっ」
〈はい、聞こえています。……テルミこそ、ワタクシの声が聞こえますか?〉
「あぁ聞こえるっ。よかったノキオ……あの赤鬼女、ウソこかなかったんだな。よかったノキオ、ガチに……」
照壬は再び涙と鼻水のブン流しで感泣。
〈テルミはやはり泣き虫ですね。斃されてしまったのはワタクシの一部でしかありません、ワタクシは全くの無事ですので。安心して泣き止んでください〉
「……泣き虫じゃないってのっ。大切な人、てか存在と、いきなり二度と話ができなくなったら当然だろうが、そこで泣かなくていつ泣くんだよっ。それで泣けないなんてのは人間じゃないっての……」
〈こうして、また会話ができているではありませんか〉
「ウルセ~──」照壬は幹へ一発、ぎこちない左フックを入れた。
〈大丈夫ですか、その拳? ケガなどされては困ります〉
「ゴメンなノキオ、悪人どもをブッ殺してやれなかった。……まさかノキオが、分身とは言えあんなにあっさり絶え果てちまうとは思わなかったんだ」
〈……わかっていましたけれども、よかったですそれは。テルミを同族殺しにまでしてしまっては、ますます生き難くなりますので〉
「けど、あの御者、ワイヴァーンを操る女のケツはブチ貫いてやった。あの女だろ? ノキオに火を点けやがった奴はっ。あとの二人は遠目ですら腰ぬけだってわかったし」
〈あの振動、と言いますか音は、そんなことをしていたのですね? 草木が生える地面でのこと以外は明確にはわかりませんから、何事かと思っていたのです。勿論、テルミが一方的に圧倒している状況だけは伝わってきましたので、全く心配はしませんでした〉
「オレは、ノキオがやっつけたあとで追い討ちをダメ押しただけだ。変な魔法を喰らうまで、ノキオは完璧だったって」
〈……ですね。喰らってしまって、台ナシです結局〉
「てか、どうしてあいつらが来たことをオレに知らせなかったんだよっ? ワザと、オレを巻き込まないよう顔を洗いに行かせたろ? 最初からノキオ一人で片づけるために、あんな水溜めも拵えたんじゃないのか?」
照壬の責めかけに、ノキオは須臾、返す言葉に詰まった挙句のうち明けをする。
〈バレてましたか……テルミが言うところの、てか、ですね、そもそもこの日のために、ワタクシはあの分身をつくり出したのです〉
「そうだったのか? でも何で」
〈この山で、人身売買の取引までされ始めてはガマンなりません。オピの怒りは森の怒り、顕然と思い知らせる必要がありました。それだけは充分かつ存分に達成できたと思います、テルミのお蔭と言えるのです〉
「……ノキオが助けた赤鬼女がツリーマンとか言っていたけど、あの分身の姿でビビらすだけで、あいつらは二度とここで悪事をしなくなるのか? 分身で牽制し続けないと、スグまた始めるんじゃないのかよ?」
〈……そうですねぇ、テルミにどう説明すればいいでしょうか……〉
「オレが手を貸せば、分身を守れたかも知れないのに、水クサすぎだろが。この森の平和は、もうオレの平和でもあるんだからなっ」